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Ep.6-137

「随分と元気になられたようですね。エリオス・カルヴェリウス」


小さく息を吐きながら、ユーラリアはそう言ってエリオスを見遣る。

泰然とした様子でテントの最奥に座するユーラリアの横にはレイチェルが控えており、どこか苦々しげな表情でエリオスを見つめていた。

そんな彼らに向けてエリオスは外套の裾をつまみながら慇懃に腰を折る。


「お陰様で——君たちが私を殺さなかったおかげでね。その甘さにまずは感謝を」


「ふふ、ひどい言われようですね。それとも貴方としては私たちに慈悲をかけられるような形になるくらいなら死んでしまいたかったのですか?」


そう問い返したユーラリアに、エリオスは肩を竦めながら口の端を吊り上げる。


「まあ、君たちの判断について言いたいことも思うこともあるけれどね。私は、誇りある死を望むとかいう被虐嗜好じみた武人的な精神性なんて生憎持ち合わせていないからね。それに私には死ねない理由もあるし——うん、死にたくはなかった。だからとりあえず、一般的な礼節として感謝の言葉は伝えておくよ。ありがとう。シャールも、ね」


彼の発したあまりにも彼らしくない五文字の声に、シャールたちは驚愕する。あのユーラリアでさえも目を丸くして、エリオスを凝視する。

シャールもまた、いろいろなものが自分の中でガラガラと音を立てて崩れ落ちていくような感覚に襲われて、口をぱくぱくとさせる。


「な、なんだか……気持ち悪い」


「いや、流石にひどくない?」


思わずシャールの口から溢れでた言葉に、流石のエリオスも心外そうな顔をして抗議する。


「あ……ごめんなさい。つい本音が……」


「何のフォローにもなってないけど。いや、まあらしくないってことは自分が一番よく分かっているし、何なら私が一番怖気を感じているけどね。虫唾が走りそうなくらいには。とはいえケジメはつけておかないとね」


そう言ってエリオスはため息を吐きながら視線を落とす。それからユーラリアやエリシア、レイチェルそしてシャールを順々に見ながら、皮肉っぽい笑み浮かべる。


「押し売りされた恩ではあるけど、それが有益なものならば借りはいずれ返すとしよう。ここにはそれだけ言いにきたんだ——それじゃあね」


「お待ちなさいな」


くるりと踵を返してテントから立ち去ろうとするエリオスを、ユーラリアは呼び止める。足を止めてちらと振り返るエリオスに、彼女は舐るような視線を向ける。


「——せっかく来たのです。魔王と戦った貴方の所感を聞きたいのですけど。もっと言えば、貴方はどうやって負けたのかということを」


「……ひどいことを頼むものだね。あの屈辱的な負けっぷりについて自分の口で語れとか……大怪我の後なので、体調が思わしくない。これにて失礼させてもらいたいんだが?」


「あら、私の騎士たちに軽口を叩いて怒らせる元気はあるのに?」


ユーラリアの反撃に、エリオスは眉間に皺を寄せながら小さく舌打ちをする。それからユーラリアたちの方へと向き直ると、ちらと彼女の傍に控えるレイチェルを見遣る。


「椅子ぐらい用意してよ——怪我人に立ち話なんてさせないで欲しいな」


肩を竦めながらエリオスは唇を尖らせながらそう言った。

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