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Ep.6-136

一方その頃、魔王軍の拠点にして決戦の舞台たる大平原から山脈を一つ隔てた荒野。峡谷の道を抜けたその場所に展開された野営地の中心を、エリオスは歩いていた。

その後ろを、シャールは不安そうな目を向けながらついていく。

彼らが向かうのは野営地のど真ん中、荒野の風に勅令旗がたなびく最高巫司のテントだ。エリオスは、先ほどまで重傷で気を失っていたとは思えないほどにしっかりとした足取りでテントの前に辿り着くと、無言でテントの布扉を開こうとする。

しかし、それが許されるはずもなく、最高巫司のテントを守る二人の門番役の聖教国の騎士がエリオスの目の前で手に持った装飾過多な槍の穂先を交差させて彼の進路を阻む。


「――ここがどこだか分かっているのか? 恐れ多くも最高巫司猊下の御座所であるぞ」


「嗚呼もちろん分かっているとも。体力も回復して今私の頭は冴え切っているからね。理解したうえでここにきているんだが? 道を開けてもらえるかな雑兵くん」


「ぞ……き、貴様! 私は――」


にやにやと笑うエリオスに、二人の騎士たちは眼に見えるほどに青筋を立てて激怒の表情を浮かべる。彼らは単なる兵士ではなく、他国では貴族階級である聖教国の騎士だ。普段であればどれだけ煽り立てられたとしても、手をあげるようなことは無いだろう。しかし、この戦役で彼らもひどく疲弊している。そんな中で神経を逆撫でるようなエリオスの言葉。その場に一触即発の空気が流れる。

兵士たちは交差させていた槍の穂先をエリオスの方へと向けて――


「君たち、何やってるのさ」


ふいにテントの中から軽やかな声が響いた。それと同時にテントの布扉がひらりと開いてそこから赤い髪が覗く。シャールはその声の主の姿を見て思わず声を上げる。


「エリシア!」


「あれ、シャール? 君がもめ事なんてめずらし……おっと」


ぴょこりとテントの布扉から顔を出したのはエリシアだった。その場の剣呑な空気を察しながらも、あえてそれを無視するかのような明るい声を上げる彼女は、目の前に立っている少年の姿を見てわざとらしく目を丸くする。


「エリオス――君、動けるようになったんだね。それは何よりだよ」


「ああ、君たちの甘さのおかげでね」


「ま、その話は置いといて、中に入ったらどうだい?」


エリオスの皮肉っぽい笑みに、エリシアは肩を竦めながらそう言った。そんな二人に、護衛の騎士二人は眉間にしわを寄せながら抗議の声を上げる。


「エリシア殿! このような不敬な者をいと畏き御方の御座所に入れるなど……!」


「そうです! たとえ客将であったとしても……このような……!」


二人の騎士は眉をいからせながら口角泡を飛ばして叫ぶ。そんな彼らに相も変わらず嘲るような笑みを浮かべるエリオス。そんな双方を見ながらエリシアは更に乾いた苦笑を漏らす。そんなとき、テントの中から声が響いた。


「――お入りいただいてください」


その声に騎士たちは雷に打たれたかのようにほとんど反射的に居住まいを正す。しかしその表情には困惑が浮かんでいた。怒りをぶつけるように言いたいこと、叫びたいことがあるけれど、それでも異を唱えることなど許されないという二律背反に歪む表情。

エリシアはそんな激しい表情を浮かべる二人に困ったような顔を浮かべながら口を開く。


「えっと……まあ、そう言うわけだから。彼ら通させてもらうよ」


そう言ってエリシアは布扉を開いて、エリオスとシャールを招き入れる。エリオスは、テントの中に足を踏み入れる直前にちらと騎士たちを見てほほ笑む。


「失礼するよ。番犬クン」


そう言ってテントの中に消えるエリオスを見送る彼らのこめかみに立った青筋に、凍るような感覚を覚えながらシャールはそそくさと彼らの間を抜けてテントの中へと入った。


「――随分と元気になられたようですね。エリオス・カルヴェリウス」


そんな彼らを最高巫司、ユーラリアは悠然とした笑みで出迎えた。

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