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Ep.6-135

「元を正せばこの戦い、先に戦端を開いたのは我だ。我が彼の大陸へと軍勢を送り、我が彼の地を手に入れ、己が大願を成就せんとしたためだ。即ち、彼らに我らが地を侵させたのは我であるといえるだろう」


魔王は訥々と語る。その言葉に、兵士たちは先ほどまでの憤怒に塗れた咆哮を収め、口を閉じて魔王の言葉の一音一音に、その指先の動きに意識を注ぐ。

自身に、その言葉に彼らの全意識が集中しているのを自覚しながら、モルゴースはさらに言葉を続ける。


「だが、我は後悔などしておらぬ。手を誤ったとも思っておらぬ。むしろ、我が策は今順調に進んでいると言える――彼らは傲慢にも、そして愚かにもその最高戦力で以てこの地へと足を踏み入れた。我らを倒さんと、『明日を奪還するため』と嘯きながら」


モルゴースは嫣然と、悠然と、泰然と微笑みながらそう宣う。その手をすらりと遠くに見える山嶺へと伸ばしながら。

きっとあの山の向こうでは、聖教国の軍勢たちが野営を行なっているのだろう。モルゴースに与えられた損害を回復し、挽回するために。

そんな彼らの姿を脳裏に思い描きながら、モルゴースは差し伸ばした手を握りしめる。強く、蹂躙するように。そして片眉を上げながら、くつくつと笑う。


「全ては我が策の通りに進んでいる。だがそう……さて、諸君に私は問わねばならぬ。我は我が野心、大願のために彼らをけしかけ、其方らの国を危険に晒した。これまでの我は其方らにとって名君だったかもしれぬが、今この場にあって我はその銘に相応しくない暴君であろう。その上で問おう。其方らは、この話を聞いてなお——この戦に身を投じるか?」


モルゴースは問いかける。その問いかけに、サウリナはわずかに不安を感じる。自身は何があってもモルゴースについていくと決めていた。だが一般の兵士たちは? 彼らはこんなことを言われてなおモルゴースに従おうと思うものなのだろうか。もし彼らがこの場で離反してしまったら。

そんな不安を過らせるサウリナに対してモルゴースはさらに続ける。


「どうだ諸君。我の野心に塗れた大願のための戦にその命を捧げられるか? 捧げられぬというものは今すぐこの場から立ち去るがよかろう。罪になど問わぬ」


モルゴースの口から吐かれた言葉に、サウリナの不安に拍車がかかる。しかし、そんな彼女の不安とは裏腹に、兵士たちは微動だにしなかった。

モルゴースはわずかに目を細め、侮蔑するような視線を兵士たちに投げつける。


「なんだ? 誰も去らんのか? この場に集う者たちは皆、この暴君たる魔王モルゴースに命を捧げるというのか?」


モルゴースの問いに魔物たちは手に持った武器を掲げて、大きく大地を揺らす咆哮を上げる。意志も覚悟も決まっている。そう言いたげなように。そんな彼らを見下ろしながら、わざとらしいため息混じりに、それど何もかも予想通りといったような表情でモルゴースは高く声を上げる。


「ならば良かろう! 愚者どもよ! 我に傅き、我に従い、我が大願のためにその命を捨てるがいい! しからば我も其方らの愚かなる覚悟に全霊をかけて応えよう!」


そう言いながらモルゴースは聖剣を抜き放ち、高く天に掲げる。


「人類よ、『明日を奪還する』だと? 笑止千万、お前たちの明日は今より奪われるのだ。秩序も財も、神も未来も——全て我らが奪い尽くす刻が来たのだ!」

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