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Ep.6-133

暗黒大陸の中枢に座する魔王モルゴースの本拠地・メルグバンド。それは高く分厚い城壁に囲われた城塞都市の様相を呈している。

城壁の内側は魔人や魔物たちのうちでも一般市民や兵士たちが住む城下町たる居住区。軍事施設を擁すると同時に王城を守る最後の砦ともなる兵装区、そして魔王の居城であるアコール城の三層構造となっている。

特に中枢のアコール城は、中央の大尖塔を中心に剣山のように大小様々な尖塔がそりたった重厚にして威圧感たっぷりの城である。

城壁の外へと視線を転じて見ると、暗黒大陸最大の山嶺を背に、そこから流れる川が織り上げた扇状地の要の部分に築かれたこの城塞都市にはあらゆるところを川から引き込まれた水路が通っている。居住区はもちろん、兵装区、そしてアコール城の内部にさえも。平時であれば食物や資材を、戦時であれば戦のための物資や兵糧の運搬がこの水路によってなされている。

元はといえばメルグバンドの街並みもアコール城もモルゴース自身がゼロから築城したものではない。元々歴代の魔王が本拠としていたこの地に残された廃城を、モルゴースが二十年前に暗黒大陸全土を制圧して以降の本拠地として定めたのが始まりだった。

それからここまでの間に、サウリナが張り切って改築した魔王に相応しい城——アコール城を中心に、モルゴースに恭順した魔物や魔人たちが都市を作り出したのが今のメルグバンドの始まりだった。

それから多くの民が集まり、随分とこの都市は発展した。このような街を作ろうなどとはモルゴースは思っていなかったけれども、それでも自分のお膝元で育っていく街並みには愛着も湧くもので、そこを戦場にするかもしれないということには僅かながら抵抗を覚えずにはいられなかった。

モルゴースは城の中を歩きながら窓越しに城下町を見て、サウリナに問いかける。


「一般市民の避難は終わっているな?」


「は、恙無く。今なおこの地に残っているのは、皆御身のために命を捧げる覚悟を決めた者たちだけです」


「ふ、そうかそうか。では我などに命を捧げようという度し難い愚者たちに手向けの一つでも早々にくれてやらねばな。どれ——」


モルゴースはそういうと、サウリナを抱き寄せる。


「へ——? 陛下? 何をなさるおつもり——」


「黙っておれ。舌を噛むぞ?」


そう言いながら彼女の体をしっかりと掴むと、モルゴースは近くの窓を開ける。そして窓の桟に足をかけると、そのまま総身に力を込め、一気に跳躍する。


「〜〜ッ!?」


「すまんなサウリナ! 我も少し昂ってあるようだ! 柄にもなくはしゃいでおるが許せ!」


そう言ったのと同時に、モルゴースが指を鳴らす。その瞬間、モルゴースの背中から黒い烏のような翼が生え出る。それを見た瞬間、サウリナは本当に自分の主は柄にもないほどに高揚しているのだと知る。

モルゴースは背中の翼を大きく羽ばたかせると、風を切って兵装区、居住区の空を滑る。

その姿を見た眼下の兵士たちは、困惑の声と共に喝采を上げる。それを満足げに聞きながら、モルゴースはこれから戦場となる大平原を臨む城壁へと舞い降りる。そして、眼下で戦支度を整える兵たちを見遣る。彼らもまた、突如現れた自分達の王の姿に息を呑む。

モルゴースはそんな彼らの視線——期待と羨望を一心に受けながら満足げな笑みを浮かべて口を開く。


「諸君——我に傅き、我を敬する愚者たる諸君。さあ、戦が始まるぞ」

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