Ep.6-130
「まずはサルマンガルドよ。其方の慧眼に賛辞を贈らねばならぬな」
「——やはりあのチカラ……聖剣の権能に類するものか」
モルゴースの言葉に特に感じ入ることもなく、サルマンガルドは低く唸るようにつぶやいた。そんな彼の言葉をモルゴースは首肯する。
「然り。アレは魔術という理を超え、その枷に囚われることのない権能。だが、完全に聖剣のそれと同じであるとは言い難い」
「……どういうことだ?」
「あの権能——我が聖剣の前で霧散した」
その言葉に、サルマンガルドは目を細める。その瞳の光に浮かぶのは困惑だった。サルマンガルドはほんの数瞬の間、逡巡しながらも、すぐにモルゴースに更に問いを重ねた。
「……どういうことだ? 何故そんなことが起きる」
「サルマンガルド? どうしたのです、貴殿らしくもない。単に我らが主が、あの少年よりも優れていたとにうことではないのか?」
サウリナは、サルマンガルドの反応を見て訝しげに問う。彼の語気は相変わらず淡々としているけれど、それでもその裏には本気の困惑が透けて見えていた。
サウリナの問いに、サルマンガルドは呆れたように鼻を鳴らす。
「君は黙っていろサウリナ。話を混線させて僕の思考を乱すな——嗚呼、そうか……なるほど。そうか、権能……純度の問題か……? いや、格が足りないのか」
ぶつぶつと独り言を呟くサルマンガルド。一喝されたサウリナは、何かを言い返そうとしたが、既にサルマンガルドは言葉を交わせる状態では無くなっていた。完全に、自分の世界に閉じこもってしまっている。
サウリナは、助けを求めるようにモルゴースを見遣るが、魔王であっても完全に耳が塞がっているサルマンガルドには打つ手無しのようで、苦笑を漏らす。
「まあ、あやつの権能の分析はサルマンガルドに任せるとしようではないか。この軍議の場において、我が其方らに伝えるべきことは一つ。エリオス・カルヴェリウスを我が無傷に近い形で倒せたのは、相性の問題が大きいということだ。奴の権能は聖剣にて打ち砕くことができる。そうなれば一方的な完全試合を演じることもできる。だが、それ以外の者が相手をするのは中々に骨であろうな」
「ですが、あの者のためだけに御身をわざわざ戦線に立たせる訳にも……万が一のことがあっては……それならいっそこの私が……」
サウリナはモルゴースに不安げな目を向ける。そんな彼女をモルゴースは優しげに見つめながらも、ゆるゆると首を横に振る。
「其方には我が軍の指揮権を委任してあったはずぞ? それを放り出すというのはいただけんなぁ」
「そ、そんなつもりは……! ですが……」
「安心せよ。我は本格的に開戦すればこの城にて魔王らしく鎮座しているつもりだ。ここからでも十分に我が魔術は戦場を蹂躙できるだろうからな。しかしそうなると、エリオス・カルヴェリウスには誰を宛てるべきか……」
わざとらしく考え込むような仕草をするモルゴースの言葉に、苦笑を漏らす者が一人。
「そのような明け透けなことをなさらずとも、私が彼の少年のお相手を仕りましょう」
そう言ってナズグマールがくつくつと笑った。




