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Ep.3-9

「特命?」


アリアが怪訝な顔で復唱する。アリキーノはにんまりと笑いながら満足げに頷く。


「そう、我らが国王陛下から極秘の特命です――魔術師エリオス・カルヴェリウスを捕縛、連行せよと」


「捕縛ですって?」


芝居がかった調子で王の特命の内容を謳い上げるアリキーノに対して、アリアは思わず聞き返す。その表情には、驚きが五割、バカにしたような嘲笑が五割混じりあっていた。何を馬鹿なことを、正気なのか――そんな感情をありありと前面に押し出したような表情だった。

シャールも同様に驚いていた。あのエリオスを殺すのではなく、捕縛? 生かして捕らえるというのか?

殺すだけでも、どれだけの屍を積まねばならないか分からないというのに――生け捕りなんてことをしようとしたら、骸でこの館が溢れかえることになる。


「く、くく‥‥‥ふふふ、あははは」


耳を疑うシャールの後ろで、笑い声が響いた。ガラス球を転がしたような玲瓏な、それでいて怖気の奔るような笑い声。シャールは思わず振り返る。その視線の先、アリアが笑っていた。腹を抑えて、上体を折り曲げて、腹がよじれるかのように。


「あははは、貴方達の王サマは正気なのかしら! あの女魔術師から何を聞いたの? それとも息子が死んでおかしくなっちゃった?」


そうだ。王国にはリリスが帰還をはたしているはずだ。彼女の性格からして、自分が遭遇したこと――特にルカントの死について――国王に報告しないはずはない。自分たちがどのようにして負けたのか、賢明な彼女はつぶさに語り聞かせたはずだ。

そして訴えたはずだ。そう容易く勝てる相手ではないと。ミリアの亡骸という雄弁な証拠もあったはずなのだ。なのになぜ―――本当に王は乱心してしまったのだろうか。

苦笑を浮かべるアリアに対して、アリキーノの方も余裕綽々の笑みを崩さない。それどころか、やれやれと言わんばかりに肩を竦めるジェスチャーすらしてみせる。


「――我が王が乱心? はは、ご冗談。我が王はとてもとても冷静ですよ――恐ろしいほどにね」


「冷静?」


「ええ。虚勢ではないですよ? 我が王は冷静に、あの女の言葉を聞き、そして英断されたのです。エリオス・カルヴェリウスを捕縛し、レブランクの兵器として支配下に置くのだと」


シャールは自分の頭がどんどんと痺れていくような感覚に襲われる。この男は何を言っているのだ。殺さず、生け捕りにするだけでその難しさは跳ね上がるのに、そんな彼をあまつさえ支配下に置くなど、常軌を逸している。

シャールは思わず口を開いてしまう。


「正気、ですか――?」


「ええ、正気も正気ですよ。とはいえ、エリオス・カルヴェリウスは第二王子を殺した大罪人ですからねぇ、あまり大っぴらにこの計画を実行に移すことはできない。それゆえに、近衛騎士第二師団――王の密勅により、秘密裏に動く我々が遣わされたのですよ」


アリキーノは口元を歪めたまま、慇懃な口調でそう言った。

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