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Ep.6-126

モルゴースはそっとサウリナの唇から指を離すと、モルゴースは再びソファに戻ってぽすんとそこに腰を落とした。そして、ちらとサウリナの方を見遣りながら、口の端を歪ませる。


「――我がどこに行っていたのか分かっているのなら、当然我がなんのために奴らの下まで出向いたのかというのも当然に分かっているのだろう?」


モルゴースの問いかけに、サウリナは視線をわずかに伏せながら口を開く。


「お考えは色々あろうかと思いますが――第一に、あの軍の者が我らが民を陵虐したからだと」


「その通り。これは許されざる大罪だとは思わんか?」


「しかし――御身は我らが王なのですよ? そのお立場、そしてその身の安全を考えると……その」


そこまで言うとサウリナはうつむきがちに唇を噛みながら言葉を詰まらせる。そんなサウリナに、モルゴースは苦笑を浮かべると、ゆるゆると被りを振る。


「言わんでもいい。言葉になどされずとも、其方の思う所は分かる」


モルゴースがそう言うと、サウリナは唇を引き結んだまま頭を軽く下げる。

サウリナはきっとこう言いたいのだろう。人間たちとの戦いという大事の前において、たった三人の子供が虐げられたというだけの些事のために、王であるモルゴースがその身を危険に晒すようなことは避けるべきだと。

彼女の言いたいことは分かるし、理解(わか)る。それでもモルゴースはゆるゆるとかぶりを振りながら立ち上がる。


「其方の思っていることは正しいのだろう。だがな、我はこうも思うのだ。あの蛮行を放置し、断罪せぬことは王として——其方らの羨望と信頼を一身に受けるものとして、相応しくないのではないか、とな」


「それは……」


「我は魔王……魔性なれども『王』である。其方ら民を率い、導き、庇護する者である。欲望も、信念も、意地も。何もかもを極限まで極め、貫き通すのが『王』というものであろう? そして、そんな我だからこそ其方らはついてきてくれている。其方らを魅了することができている。其方らに夢や願いを見せられる」


モルゴースは空を仰ぎながら部屋の中を闊歩する。そんなモルゴースに、サウリナは少し不服げな、それでいて羨望を宿したような瞳を向ける。

そんな彼女の視線を受けながらモルゴースはくるりとサウリナの方を振り返って、にんまりと笑って見せる。


「故に——我は常に其方らが憧憬を抱くような王であり続けねばならぬ。其方らに夢や希望を持ち続けられる王であらねばならぬ。其方らに熱を与えられる王でならねばならぬ。そのあり方を我が放棄することだけありえない」


そう言ってモルゴースは何もかもを包み込むかのように腕を広げる。サウリナはモルゴースの言葉に、全身の血液が沸き立つような感覚を覚える。総身が震えるような昂揚とも歓喜とも言えぬ感覚。臣下としての理性を一瞬でも手放せば、あの腕の中に飛び込んでしまいたくなるような衝動。

それでもサウリナは臣下として、その衝動を噛み殺してその場に跪く。

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