Ep.6-124
「え……?」
シャールの反応に、エリオスは思わず呆けたような声を零した。彼にとっては、彼女の反応や言葉が全て彼女らしからぬものとして映ったのだろう。
シャールはそんなエリオスを見下ろしながら続ける。
「ええ、確かにこの決断は身勝手で傲慢かも知れません。いつかこの決断が仇となることがあるかもしれません。それでも、私はきっと自らの手で、自分の望む形で貴方への復讐を成し遂げられない方がよっぽど後悔してしまう」
シャールは訥々と言葉を紡いでいく。
もはやこの感情は理屈では無くなっていた。ただ、自分の中にある葛藤、焦燥から生まれ出た感情の発露だった。
他人のことも、世界のことも。何もかも放り投げて、自分の目的を叶えたいという渇望。
眠っているエリオスの前に立ったあの瞬間、究極の二択を迫られたあの瞬間——その時浮かんだのはそんな感情だった。
普段ならば、シャールはきっとこの渇望すらも抑え込んでしまおうとしただろう。理屈として正しい方を選ぼうとしただろう。
それでも、シャールはあの瞬間だけは、理屈も他人もかなぐり捨てることができてしまったのだ。まさしく、根源的とすら言える渇望が「それがどうしたと言うのか」と、自分の中の薄っぺらな煩悶を消し飛ばしたのだ。
だから——
「だから、私はこの私のための復讐を、私が納得できる形で飾り立てていく。誰にも文句なんて言わせない、誰かの利益なんて知ったことじゃない。だって、これは私による私のための私だけの復讐なんだから」
「——へぇ」
シャールの言葉にエリオスは穏やかな表情を浮かべていた。そして、ゆっくりとベッドに横たえていた身体を起こすと、じっとシャールの目を見つめた。そして皮肉っぽい笑みは浮かべたままに告げる。
「悪くない啖呵だ。うん、まあ確かに私も君と同じ状況なら、同じような判断を下すだろうね。うん、珍しく君の言葉が気持ち悪く感じなかった。ふふ、自分の欲望を優先させるその在り方……割と私好みだよ」
「ありがとうございます。最低の褒め言葉です」
エリオスのいやみったらしい賛辞に、シャールは眉をわずかにひくつかせながらそう返した。エリオスはそれに満足げな笑みを浮かべると、ゆっくりとベッドから身体を引き剥がして、ふらつく足取りで立ち上がる。
そんな彼の姿に、シャールは一瞬不安を感じて反射的に彼を支えるための手を伸ばそうとしたけれど、エリオスはそれを軽く払って拒否する。
「いいだろう。君がそう啖呵を切るのなら、私も君を実験動物や所有物としてではなく、確かな敵として認識しよう。無論、私に屈辱を与えた魔王を叩きのめすまでは共闘するけどね——私の認識を改めさせたこと、後悔しないようにね?」
エリオスはそう言ってにんまりと笑ってみせる。その笑顔から溢れる凄みにシャールはわずかに気圧されつつも、負けじと笑い返す。
「貴方こそ。私たちの復讐を甘く見過ぎないようにしてください?」




