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Ep6-123

シャールの言葉に、エリオスは僅かにその顔に動揺を浮かべるが、唇を引き結んだまま、真っ直ぐ彼女の瞳を覗き込んでいた。その目は、彼女の心の底を引き摺り出そうとするような意志を帯びているように見えた。

普段ならばシャールはそんな彼の視線が厭で、目を逸らしてしまうのだけれども、今この時、彼女は一切動じることなく逆にエリオスの内心を掴み取ろうとするように彼の瞳を見つめる。


「——くだらない」


エリオスはそう言ってシャールの瞳から視線を外した。そして肩を竦めながら、ベッドの中に起こしていた身体を倒れ込ませる。


「——瑣末なことにこだわって……千載一遇の機会を逃した。そうは思わないのかい?」


エリオスの問いかけに、シャールは唇を噛んだ。

それは既に何度も自身に問いかけたことだった。そして、ユーラリアやレイチェル、エリシアからも同じように問いかけられていた。エリオスを殺さなくていいのかと。今がその最大の好機なのではないのかと。

迷いが無かったといえば嘘になる。このテントを訪れた時でさえ、剣を抜く瞬間まで迷っていた。

ほんの少しの感情の揺らぎで、あの時シャールはエリオスを治療するのではなく、彼の心臓に聖剣を突き立てていたかもしれない。

あの瞬間——眠っているエリオスの前に立って聖剣を握ったとき、頭の中にルカントやミリア、アグナッツォの顔が過ぎった。彼が滅ぼしたレブランクの人々の怨嗟や絶望に塗れた顔も思い出された。

彼らのことを思えば、あるいはここでエリアスのことを殺してしまうことこそ自然なのかも知れない。理由をつけて殺さないでいるのは不自然なのかも知れない。

一瞬、記憶の中の彼らが自分に問いかけているような気がした。「なぜ殺さない」「私たちは彼らに殺されたのに」「報いを与えろ」——そんな非難じみた声が聞こえた気がした。


「いいえ、いいえ――!」


違う、そうじゃない。そんなことを望んでいるのは彼らではない、そんなことを思っているのは自分自身だ。この復讐は彼らのためのものじゃない、自分のためのものだ。自分のため、自己満足の復讐を彼らの所為にするべきじゃない。思い出の向こうにいる彼らに復讐の罪を被せ、彼らの人格を汚してはいけない。


「これは、私のための、私だけの復讐です――だから、私が納得できる形でなければならない。そうでなくては、意味が無いんです」


ユーラリアたちに問われたときにも、同じように返したのだ。彼女たちはあまり理解できなかったようだけれど、リリスだけは理解してくれた。同じように、ルカントやミリア、アグナッツォという大切な人を奪われたという経験をしていて、エリオスに対する『復讐』という意思を共有している彼女には。


「魔王に散々に打ち負かされて、気絶した貴方を殺したって意味がないんです。そんなの、貴方を倒したなんて言えない。そんなことでは私たちは納得できない。だから私は貴方を助けた——私が貴方を倒すために」


「——は……なにそれ? 死んだ連中を汚さないためだとか、自分が私を倒すためだとか……身勝手な上に傲慢じゃない?」


エリオスは口の端を意地悪そうに吊り上げながら、失笑する。そんな彼の言葉にシャールもまた皮肉っぽい笑みを浮かべる。


「えぇ、その通りです。でも、それがどうしたと言うんですか?」

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