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Ep.6-122

「もう一つ……? 何の話だい?」


エリオスは眉間に皺を寄せながら、そう問い返した。シャールはその問いに、慎重に言葉を選ぶように、何といえば自分の真意が伝わるのかを入念に検討するようにしながら、静かに答える。


「私の目的を果たすため——貴方を倒すためです」


「は?」


エリオスはシャールの言葉を理解できずに思わず毒気さえも消え失せたような呆けた声を上げる。

そんなエリオスを無視してシャールは同じ言葉を繰り返す。


「貴方を倒すため——それがもう一つの理由。そのために私は貴方を殺さなかったし、アメルタートの力でその命を繋ぎ止めた」


「正気かい? 自分が何を言っているか分かってる? 君の言葉には矛盾しかない、自分の吐いた言葉の意味すら理解できないの?」


エリオスは煽り立てるように言葉を並べるけれど、そのどれひとつとしてシャールの精神に刺さるものはない。彼女は涼しい顔をして、彼の言葉を一通り聞くと、一呼吸おいてから口を開く。


「本当にそうでしょうか?」


「なに?」


シャールの短い言葉に、エリオスは立板を流れる水のように溢れ出ていた痛罵を堰き止められる。その表情には驚きさえ浮かんでいた。


「命を繋ぎ止めること、殺さないことは必ずしもその者を助けることを意味しない。それは貴方が一番良く知っているのではないですか? 例えばレブランクを滅ぼした時、近衛騎士のアリキーノ子爵をすぐに殺さなかったのだってそうでしょう?」


「——ッ!」


思い起こされるのはかつて、エリオスの屋敷を襲撃してきたレブランクの兵たち、彼らを率いる将官だったアリキーノ子爵のこと。エリオスは彼の率いる兵たちを皆殺しにした後、虫の息だった彼だけには最低限度の治療を施して延命させた。そして意識を覚醒させた彼に、レブランクが崩壊していくさまを遠見の鏡を使って見せつけ、その果てに荒れ果てた王都にて絶望に塗れた彼をようやく殺したのだ。

エリオスは自身の所業を引き合いに出したシャールに皮肉っぽい笑みを浮かべる。


「じゃあなんだい? 君は私を彼のように、四肢を削いでじっくりと苦しめながら殺したいの? ふふ、随分といい趣味になってきたものだねぇシャール」


「私にそんな趣味嗜好はありません。そして一点、貴方はまだ私の目的を正しく理解していないようなので、貴方の認識を正させてもらいます」


そう言ってシャールは揶揄うようなエリオスの軽口を遮る。そんな彼女の言葉にエリオスは口をつぐみ、どこか腹立たしげな顔で睨む。それでもその様子は先ほどよりは大分落ち着いているように見えた。それを確認するとシャールは一呼吸おいてから、エリオスに告げる。


「私は貴方を殺したいんじゃない。貴方に一矢報いたい、倒したい。結末は同じかも知れなくても、私の中ではそれは全く別のことなんです」

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