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Ep.6-119

薄暗いテントの中、ちろちろと揺れるランタンの灯に照らされたシャールの横顔は複雑、という言葉以外に形容のしようが無いものだった。一見すれば無表情にも見えるかもしれないけれど、その眉に、唇に、目元に。隠しきれない感情の奔流が見え隠れしていた。

シャールはテントの入り口に立ったまま、しばらくベッドの上に横たわったエリオスを見つめていた。息は穏やかだけれども、その顔からは血の気が失われていて青ざめている。

その首筋に手を当ててみると、ひどく冷たい。瞼を指で押し広げて見ても反応は無く、彼は相変わらず気を失ったままだ。

それを確認すると、シャールはそっと聖剣を抜く。柄を強く握りしめると、刀身に魔力が宿り若草色の光を放つ。


「エリオス——私は……」


唇を震わせながら、シャールはアメルタートを両手で掴み、そして——



§ § §



「——ぁ……」


目が覚めると全身が重かった。喉が乾く、腕に力が入らない。僅かに首を動かすだけでも痛みを感じる。痛みをおして首を動かし視線を転じると、消えかけの蝋燭を封じたランタンが見えた。

その灯りを眩しそうに見つめていると、次第に彼の——エリオスの意識ははっきりとし始める。

随分と長いこと意識を失っていたのだろうか。その記憶の最後の光景は、たしかまだ昼過ぎだったと思ったけれど、あたりの様子を見るに既に夜が更けているようで真っ暗だ。

全身が鉛を流し込まれたように重かったけれど、彼はゆっくりと腕に力を入れて上体を起こそうとする。そんな時、自身が感じていたもうひとつの重みの正体に気がつき、僅かに困惑する。


「……シャール?」


エリオスの視線の先、彼の胸元の辺りにうつ伏せるようにシャールが眠っていた。そして、その手の下には聖剣が抜き身でエリオスの身体の上に置かれている。

目の前の状況の珍妙さに、エリオスは困惑の表情を浮かべながら下手に身体をこれ以上動かすこともできずに硬直する。

そんな中、エリオスはちらと自身の格好を見遣る。普段着込んでいる外套はテントの端の椅子にかけられ、今の自分はドレスシャツ一枚の姿で、しかもそのシャツさえも半ばはだけてしまっている。

どういう趣向かと訝しむ彼は、シャツのはだけた胸元から除く自分の肌を見てあることに気がつく。


「あれ……傷、が……」


彼の意識を失う前の最後の記憶——自分は魔王モルゴースに敗れた。『嫉妬』の権能をこの身体ごと聖剣で斬り裂かれて。噴き出る血の色と、全身から熱が失われていく感覚、そして想像を絶する痛みは今も彼の脳裏に鮮烈に刻み込まれていく。

推察するに、あの後自分は魔王の一撃によって負った傷からの大量出血で失血状態に陥り、そのまま気を失ってしまったのだろう。

あれから何があったのか、どうして今自分がここにいるのかは分からないけれど、あの傷のことだけは間違いない確かなことだと覚えている。

なのに、今シャツの隙間から覗いている自分の身体には傷ひとつ、傷跡すら無い。それが何を意味しているのか、混乱した頭ながらに彼は一つの答えを導き出す。

エリオスはその導き出した答えに強く歯噛みした。

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