Ep.3-8
「さて、と」
大広間の中央に立って、アリアはすうと息を吸う。そして、広間の扉を見据えたまま、そこにただ立っていた。逃げるでもなく、抵抗の構えを見せるでもなく。ただそこに泰然と立っていた。
「アリアさん——」
無遠慮に、無作法に館の廊下を走る兵士たちの足音が近づいてくる。それなのにアリアは、シャールが声を上げても動くことをしなかった。
バァンと大きな音がして、広間の扉が蹴破られる。そしてすぐに、部屋の中に数十人の兵士たちが雪崩込み、シャールとアリアを取り囲み、武器を向ける。
「——ッ!」
シャールはアメルタートを構えて、思わずアリアの前に立つ。ほとんど無意識だった。
アリアはそんなシャールに驚いたような表情を一瞬向けたが、それもすぐに凪いだ感情の水面に融け消えてしまった。
円陣状になってアリアとシャールを取り囲んだ兵士たちに向けて、アリアは口を開く。
「随分と無作法なことね、レブランクの兵たち。私の家に一体何の御用があってこんな無法をされるのかしら?」
凛として透き通った、岩から滲み出る清水のような冷たい声だった。とても高く幼い声なのに、その口調と声音からは王侯貴族にも引けを取らない高貴さがにじんでいる。
そんな彼女の言葉に、兵士たちは思わずたじろいだ。しかし——
「なんの御用、とは——はは、ご冗談を。仮にも我が国の第二王子を殺めておきながら、その物言いはためになりませんぞ?」
兵士たちの影から一人の男が姿を表した。一際豪華なフルプレートメイルには金色の装飾が豪奢に散りばめられ、その背にはレブランク王国軍の将官貴族を示す赤いマントが揺れている。
アリアがぴくりと眉を動かした。
「誰、アンタ」
「ああ、申し遅れました。私、レブランク王国近衛騎士第二師団長を務めております、ハーレ・アリキーノ子爵と申します」
アリキーノと名乗った男は、にたにたとした笑みを浮かべたまま慇懃に腰を折り、頭を下げて見せる。頭を下げながらにこちらを見遣るその歪んだ顔からは、敬意を払うつもりなど微塵もないことがありありと伺える。
そんなアリキーノに対して、アリアは不敵に口の端を釣り上げてから、ネグリジェの両裾を摘んで、丁寧にお辞儀をして見せる。
「ふふ、これはこれはお貴族サマがいらっしゃるなんて。寝巻き姿で失礼しておりますわ——何せ突然の夜這いだったものですから。お迎えの支度もしておりませんで」
「よば——!」
「皮肉よ」
顔を赤くしたシャールに、アリアは呆れたように突っ込んだ。
そして、アリアは興が削がれたと言わんばかりにお辞儀の体勢を崩すと、今度は腕を組んでアリキーノに見下ろすような視線を向ける。
「——それで? なんでこんなところに近衛騎士が来るのかしら? 近衛は近衛らしく、お城の中で王サマを守ってればいいじゃない」
アリアは先ほどとは打って変わって無愛嬌な声と言葉でアリキーノに問いかける。その無礼とも言える態度に、シャールはどきりとさせられる。レブランク王国において貴族とは特権的存在——シャールのような平民は生殺与奪の権を完全に彼らに掌握されていたから。
しかし、そんな不躾なアリアに、さらにニヤついた顔でアリキーノは答える。
「その王様からの特命があったから、ですよ。故に私たちが来た———」
アリキーノは一際表情を歪めて、歯を剥き出して笑った。
今日は久々の祝日なお休みなのでちょっと饒舌な後書きを。
今回出てきたアリキーノさん、この先の話を書いているうちに徐々にキャラがヤバい感じにシフトして行っちゃいました……
フツーにイヤミな貴族にしようと思ったら、なんか某リンボにやばい性癖(閲覧注意な感じ)搭載したみたいなやべー奴に……まあ詳しいことは明日以降の更新をお楽しみ?にしていただければ。
あと、実はレブランク王国関係者はシャール以外全員名前に共通した元ネタがあったりします。皆さんよかったら考えてみていただければ。
episode3の最終話後書きとかで答え合わせ的なことできればなーと(覚えてられるか分かりませんが)。
最後に毎度のお目汚しになりますが、拙作をお気に召していただけた方、この先を楽しみにしてくださっている方、評価やブックマーク等していただけますとモチベーションが爆上がりします。
感想、レビューなどで文字化して伝えていただけるとさらにモチベは跳ね上がります。




