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Ep.6-118

遅れましたが投稿できなかった昨日の分です。

それから半刻ほどかけて、討伐軍は峡谷の道を抜けた。魔王がアルカラゴスに乗って戦場を離脱してから、全軍が峡谷を抜けるまでの間、魔王軍や魔物たちの襲撃は一切なかった。あの魔王は本当に、単身で乗り込んできたのだ。

聖剣使いがあれだけいる中で、エリオスという不確定要素もある中で、そのような行動に打って出るのはよほどの単細胞か、あるいは相応の自信があるのか――少なくとも、モルゴースと対峙したシャールには、あの魔王が前者のような愚者であるようには思われなかった。あの魔王には、確信があったように見えた――絶対に負けることは無いという、圧倒的な確信が。

峡谷の道を抜け、平野に出たところで討伐軍は本来の予定よりもずいぶんと早い段階で野営することとなった。魔王の襲撃、それに伴う混乱によって多くのけが人が出た。そしてそれ以上にモルゴースの力と醜悪な『蟲』たちを見たことによって、戦意をくじかれた者が多々出たのも大きかった。

討伐軍の参加者の多くは大なり小なり戦役を経験してきた軍人だ。だが、そんな彼らが経験してきた戦役はすべからくヒト同士の戦いだった。彼らは皆、この戦役をその延長としてしかとらえていなかった。

しかし、今回の魔王の襲撃、そしてそれ以前のアルカラゴスやサルマンガルドとの戦いを重ねていよいよ彼らは気が付いてしまった――この戦いは、今まで自分たちが経験してきたものとは違うのだと。人間で無いモノと戦うことの恐ろしさを。

ユーラリアたち討伐軍の首脳たちはこれらの事実を重く見て、負傷者の治療のためだけの進軍停止ではなく、全軍を休ませる野営を行うことと決めた。

先の戦いで負傷した者たちは皆、一箇所に集められそこで魔術師たちによる治療を受けている。各国の精鋭たる魔術師たちが集められているから、重傷者たちであっても五体満足な状態であれば半日ほどで戦線に復帰できる身体になるだろうとリリスは言っていた。

それ以外の者たちには多くの兵糧と安物ではあるが酒が与えられた。これで気を紛らわせろということなのだろうが、酒があるにも関わらず、兵士たちの間には前日の野営のような賑わいは無かった。

そんな沈鬱な野営地をシャールは一人歩いていた。

リリスは他の魔術師たちと一緒に怪我人の治療を行なっている。ユーラリアやザロアスタ、レイチェルやエリシアたちは軍議と皆忙しい。

そんな中、彼女にも役割が与えられていた。

兵士たちの間を抜け、彼女が辿り着いたのは一つのテント。野営地のはずれに置かれたあまり大きくないそれの布扉をシャールはそっと開ける。中には簡易なベッドが一つ。その上には毛布に包まれ微動だにしない人の影。

シャールは足音を立てないようにそっとベッドに近寄って、その上に横たわる者の寝顔に視線を落とす。


「——エリオス」


眠り続ける彼の顔を複雑な表情で見下ろしながら、シャールは唇を噛んだ。

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