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Ep.6-116

「借り……?」


シャールが自分にだけ聞こえるような声で復唱する。すると、モルゴースはその言葉を肯定するかのように頷いてみせる。


「そう、借りだとも。我が宝を侵そうとした愚者から、我が宝を守ってくれたのだからな。それは評価せねばなるまい?」


「貴方は……アレを見ていたのですか?」


モルゴースの言葉に、ユーラリアは怪訝そうな声で問いかける。するとモルゴースはくつくつと笑いながら大げさに肩をすくめて見せる。


「我はこの大陸の統治者にして所有者だ。我が目はこの大陸の至る所に点在している。その我が、其方らのような異物に目を光らせないわけがあるまい?」


そう言ってモルゴースは右手を軽く持ち上げる。すると、その手の先に一羽の鴉が舞い降り止まる。鴉はきょろきょろとシャールやユーラリアたちの方を見ると、乾いた鳴き声を一つあげて飛び去っていった。

南の空へと飛び去った鴉を見送ると、モルゴースは目を細めて話を続ける。


「我が民である以上本来であれば我が守るべきものではあったのだがな。生憎、今は戦時。あの時は手を離すことが出来なかったのでな——手を下せぬ自分自身に歯噛みしていた。そんなときに、其方らは彼らを助けてくれた。其方らは我が領地への侵略者ではあるが、その点だけは評価し、借りとして扱うこととした」


モルゴースは淡々とそう口にすると、その手に握っていた聖剣を鞘に収める。もはやこれ以上の戦闘の意思は無いように見えた。魔王は軽く咳払いすると、パチンと指を鳴らす。

すると、まだ残っていた三匹の『蟲』たちが、兵士たちを襲うのをやめて一斉に動きを止める。そして次の瞬間、彼らはじその頭部を地面へと突き立てると、一気に土を掘り穿って地中へと消えていった。後にはぽっかりと空いた巨大な穴が残るばかり。

突然の出来事にシャールたちは皆一様に困惑の表情を露わにする。そんな彼女らにモルゴースは更に続ける。


「——此度は其方らに免じてここで手を引くとするよ。そこな少年、エリオスも此度に限り皆がそう。其方らの大事な駒のようだからな」


「随分と余裕なのですね」


ユーラリアの刺々しい言葉に、モルゴースは肩を竦めてみせる。


「義理堅いと言って欲しいものだな。統治者には必要な資質だろう。それとも何かね? 其方らは更なる交戦を望むか? 確かに聖剣使いたちがこうも揃っているのなら、もしかすると我を倒せるかもしれぬな。それならば我もこの場での決着を覚悟せねばならぬなぁ?」


そう言ってモルゴースは片手を上げると、その先で魔力を練り始める。そんな魔王の言葉にユーラリアも僅かにたじろぐ。この場での魔王との遭遇、さらには決戦などというのはいくらユーラリアであっても想定していない。

確かにこの場で魔王を討伐できれば、それは短期決戦を旨とした今回の遠征においては望ましいことではあるけれど、魔王の力や魔王軍の全容が掴みきれていない状態で、ここで決戦を挑むのは無理がある。

結局、数瞬の逡巡の末、ユーラリアは自身の聖剣を鞘へと戻した。

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