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Ep.6-113

「私は――」


エリオスは唇を噛み締めながら、全身に力を入れる。権能は既に消えているけれど、まだ体が完全に動かなくなったわけではない。拳を握りしめ、足の筋肉の動きを確認する。それからエリオスは、自分の顔を踏みつけているモルゴースを見上げる。


「その足を、どけろ――極大消除魔法、限定展開」


「其方……!」


「『限局:太極(リミテッド:)接触・混沌原初(インテリートゥム)』!」


エリオスは力を込めた右腕をモルゴースに向けて突き上げて血を吐きながら叫ぶ。その瞬間、彼の手の先の空間が歪んで、虹色の極光が漏れ始める。モルゴースは流石に至近距離からの尋常ならざる魔力の収束に動揺して、飛び退く。

次の瞬間、エリオスの手に集束していた魔力は虹色の極光の柱となってうち放たれる。その光は、モルゴースの髪先を掠めて、岸壁にぶつかりそれを砕いて貫通して消えた。砕かれた岸壁から崩れ落ちたいくつもの落石が、モルゴースとエリオスの間に落ちて二人の間を隔てた。

息を整えて、まだ手に残っていた剣を杖代わりに、よろよろと立ち上がる。そんなエリオスの姿を見て、モルゴースは小さく舌打ちをする。


「まだ抗うか。その傷で」


モルゴースの問いかけにエリオスは応えない、応えられない。肩で息をするのが精いっぱいで、その度に傷がひどく痛んで苦しくて。ただ、視線を上げて、エリオスはモルゴースを睨みながら、口の端に皮肉っぽい笑みを浮かべる。それが、今の彼に出来る魔王の問いかけへの答えだった。


「何故だ? 屈せばいいだろう、私に従えばいいだろう。そうすれば、其方の主人だって悪いようにはしないぞ?」


モルゴースの更なる問いに、エリオスは深く息を吸うと途切れ途切れに言葉を紡ぎ出す。


「駄目、なんだよ。モルゴース、君の大望と……我が主の願いは……おそらく同じ……極点に至るのは、ただ一人……ならば、私たちが手を取り合うことなど……あり得ない」


「――ッ! 貴様……どこまで知って……」


「それにね、モルゴース……我が主のことを抜きにしたって……私は貴方には負けるわけにはいかない……私は、私をそう定めた、から……私は悪役……だから」


エリオスはそう言うと、喉の奥で音を立てることなく笑う。そしてすぐに、激痛に表情を歪めてその場に崩れ落ちる。対するモルゴースは、眉間にしわを寄せながらエリオスの言葉の意味を測りかねて、唇を噛んだ。


「――何を言っているのか分からんが……まあいいだろう。もはや其方は死に体、心がいくら屈せずとも、まずは我が城に連れ帰り身体から壊して――ッ!?」


不意に生き物の断末魔のような音が聞こえた。突然鼓膜を揺らした耳をつん裂くようなその音に、モルゴースは思わず動きを止め、その発生源へと視線を向ける。

魔王の視線の先、そこでは先ほど放った『蟲』の1匹が全身を痙攣させながら、若草色に輝く剣に貫かれていた。

下級の魔物とはいえ、アレの表皮は単なる雑兵の剣で傷つけられるようなものではない。それを貫き、殺せるのは——

『蟲』に剣を突き立てた者は、その剣に思い切り力を入れて『蟲』の身体を引き裂くように振り抜いた。それと同時に一際高い絶命の鳴き声をあげて、『蟲』は斃れる。

その影から現れた少女は、凛然とした表情で剣にべったりとついた血を払った。

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