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Ep.6-110

エリオスとモルゴースが交戦している頃、シャールとエリシアは逃げ惑う兵士たちの間を縫い、彼らをかき分けながら前へと進んでいた。

前方からはさまざまな音が聞こえて来る。尋常ならざる様子の悲鳴や絶叫。岩や地面が抉れ砕ける音。何か未知の生き物の鳴き声。そして剣の交わる弾けるような金属音。エリオスと魔王の戦闘が既に始まってしまっていることは、シャールたちにも明らかだった。

だというのに、シャールたちは一向に彼らが交戦している場所へと辿り着くことができない。元々隊列自体がこの峡谷の道に入ったことで、かなりの距離になってしまったからというのもあるのだが、それ以上に次々に押し寄せる障害物が彼女たちの道を阻んだ。

際限なく前方から押し合いへし合いながらなだれ込んでくる兵士たち。屈強な身体を重く固く、そしてかさばる鎧で包み込んでいる彼らをかき分け進むのは、力がそれほど強くない二人には至難の業だった。例えうまく進むことができたとしても、すぐに押し戻されてしまったりする。

聖剣の権能を使って、巨大な蔦でも呼び出してそれを使っていこうかとも思ったけれど、そんなものをこの状況で出せば、驚いた兵士たちが連鎖的に転倒して、崖の下へと落ちる者が出るかもしれない。そんなことを思うと、シャールもエリシアも地道に兵士たちをかき分けて進むしかなかった。

とはいえ、二人は着実に時間をかけながらも前進していた。

エリオスと別れてから15分ほど経って、シャールたちはようやく剣戟の音がはっきりと聞き取れる距離まで到達した。

そして、そこで思わず全身を硬直させて立ち尽くした。


「なに、アレ——虫?」


シャールはうわごとのように漏らす。彼女たちの目の前で繰り広げられているのは紛うことなき惨劇——巨大な5匹の『蟲』が、兵士たちを呑み喰らう様だった。逃げ惑う者も、立ち向かう者も等しく頭から食い荒らされていく。その度に噴き出る血と断末魔がこの光景をより地獄のように飾り立てる。

血と臓物のむせ返るような匂い、そして腐敗臭にも似た強烈な異臭。喉の裏を熱くドロドロした酸っぱいものが込み上げて来る感覚にシャールは思わず口元を押さえてうずくまる。心臓がバクバクと五月蝿く鳴る。目の前が霞んでくるような感覚もある。

シャールは大きく肩で息を吸いながら、ゆっくりと呼吸と鼓動を戻していく。強烈な嘔吐感を何とか押し込めて、シャールは立ち上がる。

隣のエリシアもまた、あまりの光景に言葉を失っていたが、すぐに剣を握りしめる。


「シャール、あれ」


エリシアに促され、シャールは目線を『蟲』たちの奥へと向ける。『蟲』たちの間、生きた兵士がいなくなり、ただ血と肉片で飾り立てられた色鮮やかな舞台の上で二つの人影が交戦していた。

一つはエリオス。血まみれの剣を片手に、魔術や拳、蹴り、剣戟などさまざまな攻撃を矢継ぎ早に繰り出している。対するもう一つの人影は流れる大河のように燦く長髪を揺らした麗人。その頭部からは一対の捩れた大角が生え出ている。その滲み出る威圧感に、シャールはあれこそが兵士たちが口々に叫んでいた「魔王」なのだと確信する。魔王はエリオスがあらゆる手段を尽くして攻撃しているのに対して、手に掴んだ青く光る剣一本でその悉くをあしらっていた。

劣勢、というわけではないのだろうけれど、普段のエリオスらしい余裕のある戦いぶりではないことは一目瞭然だった。その表情からも普段の薄ら笑いが消えている。その様にシャールは思わず絶句する。「魔王」はエリオスがここまで苦戦する相手なのかと。


「シャール、いけるかい?」


呆気にとられていたシャールに、エリシアが問いかける。シャールはその言葉に正気を取り戻すと、こくりと頷く。


「いけます。まずはあの魔物を倒して、それからエリオスに加勢します」


そう言ってシャールは聖剣を抜いた。

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