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Ep.6-109

先に仕掛けたのはエリオスだった。一瞬で距離を詰めると、血まみれの剣を振り抜いて、モルゴースの首筋に刹那の斬撃を見舞う。しかし——


「疾いな。良い動きだ。だが、我はもっと良い動きをするぞ?」


「——ッ!」


エリオスは思わず息を呑む。振り抜いた剣は血を噴き上がらせることはなかった。次の瞬間、からんという乾いた音が鳴り響く。魔王の首筋を斬り裂くはずだった白刃が地面に落ちていた。

剣が折られた、その事実に気づくのにエリオスは数瞬かけてしまった。表皮が硬質化されたモルゴースの拳で素早く叩き折られたのだ。

そんな動揺した彼のがら空きの腹部に、モルゴースは思い切り回し蹴りを叩き込む。


「——ぐぅッ!」


「ふふ、全身を動かして戦うというのもたまには悪くはないものよなぁ。どうかな、我の蹴りは?」


魔王は優然とした態度で後方まで吹き飛ばされたエリオスに問いかける。しかし、すぐにエリオスも立ち上がると、皮肉っぽい笑みを浮かべる。


「——いい具合に目が覚める一撃、かな」


「ほう。今の蹴りは、筋骨隆々のオークであろうとあばら骨が砕けて内臓が破裂する代物なのだが。その華奢な身体でなおも立ち上がるとは、先の強化伊達ではないのう」


「思ってたより殺意高いな。生かして麾下に加える気とか本当は無いのでは?」


エリオスの呆れたような言葉に、モルゴースはくつくつと喉の奥で笑う。


「ふふ、即死さえしなければいくらでも生かしようはあるからのう。瀕死の其方を甲斐甲斐しく世話してやれば、犬のように懐くやもしれんしな」


「——は、冗談。例えどんな状況になっても、私は彼女以外の主人には靡かないし跪かない。こう見えて忠犬なものでね」


「忠犬というには、悪い顔をしておるがのう。とはいえ、他者の躾済みだというのなら、上書くように苛烈に躾けるまでだがな」


そう言いながら、モルゴースは一歩を踏み出す。それを見て、エリオスは黒い影の手を伸ばして、死んだ兵士の別の剣を掴む。

先程は剣に強化をかけ損ねていたから折られたのだろう。次は剣全体を再構築するレベルの強化を施す。そうしなければ、こんな雑兵の剣で魔王とやりあえるはずもなかった。

エリオスはちらと背後を見遣る。兵士たちの様子が気がかりだった。

未だに兵士たちのほとんどは逃げ腰で『蟲』に背を向けているが、中には剣を持って立ち向かい、その侵攻を押しとどめている者もいる。彼らだけならばそう長くは持たないだろうが、もう少しすれば最後尾から兵士たちをかき分けてシャールとエリシアがやってくるはずだ。

前方からも、レイチェルやリリス、ザロアスタたちが来るかも知れない。魔王と対峙しているエリオスには、彼らのいち早くの到着を期待する以外に、あの『蟲』に対して出来ることはない。その事実がいよいよもって惨めで滑稽で、エリオスは歯噛みしながらも自分の力がさらに倍化していくのを感じる。


「よそ見とは、つれないではないか」


「——ッ!」


すぐ近くで聞こえた声に視線を戻すとエリオスの目の前にモルゴースの嗜虐的な笑顔が迫っていた。

エリオスは僅かに表情をこわばらせながらも冷静に、魔王の目の高さで剣を振り払う。その一撃に魔王は素早く反応し、一歩飛び退くと聖剣の切先をエリオスに向ける。


「ふむ、先程は粗野に走ってしまったからな、次は流麗な剣舞といこうか。共に踊り明かそうか、エリオス」


その言葉が空に解けるのと同時に、エリオスとモルゴースの激しい剣戟の嵐が始まった。

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