表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/638

Ep.3-7

そうだ、エリオスを倒せないにしても、目の前の彼女を殺せば——彼に一矢報いることができる。仮令たとえそのあとで――エリオスにか、兵士たちにかは分からないが――自分が殺されてしまったとしても、あの悪役に傷を与えることはできる。死んでしまったかつての仲間たちに顔向けが出来る―――?

シャールは、アメルタートの柄に左手を添える。

震えが止まらない、口の中が乾く。どくんどくんという脈拍が、肩の傷口から血が滲み出るにつれて強く感じられる。


「―――そう」


アリアが短くつぶやくように、寂し気な笑顔を浮かべながら言った。

それを見た瞬間、シャールは自分の身体が石になったように固まったような錯覚に陥る。いいのか――本当に? 

エリオスは倒すべき敵、滅ぼされるべき悪だ。それは疑いない――なぜなら、彼の罪をシャールはその目で見たから、許せないと憤ったから。だが、目の前の彼女は? 彼女にいったいどんな罪がある? 私はそれを知っているのか?


「―――ッ」


シャールは顔に被った蜘蛛の巣を払うように、首をぶんぶんと横に振る。そして、口元を手で押さえ荒れた息を押し込めようとする。

――彼女の罪? そんなものは知れている。エリオスの『ご主人様』でありながら、彼の悪行を放置しているのだ。同罪だろう―――本当に?

脳内で、いくつもの記憶がフラッシュバックして、それらがぐちゃぐちゃに撹拌される。エリオスの悪行、死んだ仲間たち、森の中に作ったささやかな墓標、アリアの笑顔、エリオスの穏やかな顔‥‥‥


「う、ああ‥‥‥」


どうすればいい、どうしたらいい。自分には何が許されていて、何が許されていないのか。頭ががんがんと痛む。カランと軽い音がして、アメルタートが地面に転がるのと同時にシャールはその場にうずくまる。

そんな彼女を、アリアは一瞥してから扉を見る。


「そろそろ、か」


そう口にしたかと思うとアリアは、シャールの手に自身の手を重ねる。冷たい手だった。絹のような滑らかな肌だが、それでいてとてもとても冷たい手。


「行くわよ――」


「え――どこへ?」


シャールの問いに答えることなく、アリアはその手を引いて走り出す。シャールはその手から零れ落ちたアメルタートを何とか拾って、脱力したままにアリアについていく。

髪の毛を揺らして駆けて行くアリアの後姿を見ながら、シャールは思う―――彼女は今、何を考えているのだろう。自分はアリアを殺そうとしていたのだ。それは、アリアにも分かっていたはずだ。そんな自分の手を今彼女は引いている。どういう気持ちなのだろう。

そんなことを思いながら走っていると、遠くから何かが弾けるような大音声が鳴り響き、館中をこだました。

大扉が破られたのだ。次々に兵士たちの侵入する足音が聞こえてくる。雑踏の音に加えて、怒号や罵声、咆哮が静謐だった館を侵す。

そんな後方を振り返ることなく、アリアは走る。

そして二人は、エリオスの玉座のある大広間へとたどり着いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ