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Ep.6-106

「——気持ち悪い」


宿主を食い尽くして蠢き回る『蟲』を見ながら、エリオスは眉間に皺を寄せてそう零す。その表情、そしてその声音には露骨なまでの、否、素直な嫌悪感がありありと滲み出ていた。そんな彼の言葉に、モルゴースは皮肉っぽい薄ら笑いを浮かべたまま肩をすくめる。


「おやおや、其方はこういった趣向には理解があるものと思っていたのだがな」


「趣向自体はね。でも、その気色の悪い生物は私の守備範囲外だ」


「ふふ、外側(ガワ)がどうであれ、その中身が醜く罪にまみれたモノから生まれ出るものは等しく醜悪になるものだろうさ」


モルゴースの言葉に、エリオスは口元に手を当てたまま、嘲笑うように鼻を鳴らす。


「孵化だの罪だの……よく言うよ。アレは、一種の召喚術だろう?」


「何だ、知っていたのか。人が悪いな其方も。自信満々に演出を続けていた我が滑稽ではないか」


エリオスの言葉にモルゴースは子供っぽく頬を膨らませて見せる。そんな魔王の言葉を歯牙にもかけないで、エリオスは訥々と続ける。


「魔物の種を植え付ける――なんてことはできないことは無いだろうけれど、それにしたって明らかに体積が大きすぎる。宿主の身体を喰い、魔力を喰ったにしてもあそこまで一気に成長なんてできないだろうさ。そう考えればどこかから彼らの体内に直接引き込んだと考えるのが普通だ」


「ご明察。そこまで分かっているというコトは、我がこやつらを始末するためだけにこんなものを呼びだしたわけではないことも分かっているだろう?」


そう言うとモルゴースは指を鳴らす。その瞬間、何の指向性もなく蠢いていただけの『蟲』たちがびくりと停止して、それぞれに鎌首をもたげる。目の無い顔が向く先には、逃げ惑う兵士たちの背中。


「さあ、思うさま喰らうがいい――その底なしの欲を満たすために」


モルゴースがそう言い放ったのと同時に、『蟲』たちはいっせいに押し揉み合う兵士たちにその肉塊のような身体をうねらせながら向かっていく。それに気がついた兵士たちの間で絶叫が上がる。


「——や、やめろォォ!」

「来るな来るな来るなァァァ!」


兵士たちの悲鳴に更に勢いを増したように、『蟲』たちは速度を上げて折り重なる獲物達へと駆けて行く。

兵士たちを背後に控えるエリオスは、自分の方へと向かってくる醜悪な『蟲』を前に身構える。しかし、彼らはエリオスには目もくれず、彼の横を通り過ぎ、次々に兵士たちに襲いかかっていく。


「——え」


エリオスは『蟲』たちが自分を素通りしたことに思わず困惑の声を漏らして振り返る。そんな彼を見てモルゴースはくつくつと笑う。


「あんな『蟲』の相手を其方にやらせては、それこそ役不足というものだろう? アレは体躯の大きさと貪欲さだけが武器の下等生物だからな。雑兵を齧らせておくのがせいぜいよ」


「——ッ!」


エリオスはそんなモルゴースの言葉を聞きながらも、兵士たちに襲いかかる『蟲』に向けて手を差し伸ばす。

その瞬間、彼の足元の影から影の槍が伸びて、『蟲』にむかって飛んでいく。

兵士たちを助けるために、権能を使うというのは甚だ不本意だけれども、ここでの混乱は兵力の大きな減衰を招く。そうなれば、この先の魔王軍との戦いが危うくなり、自身の目的も達成できなくなってしまう。それゆえの苦渋の決断であり、その苦渋故に権能の発動には僅かに躊躇いが生じた。

その躊躇った一瞬が、状況を悪化させる。


「——おいおい、人の話はしっかり聞いておけよ」


そんな声が響いた瞬間、『蟲』の柔らかくブヨブヨとした身体に突き立てられるはずだった影の槍が霧散する。青い光の斬撃によって。

それと同時にひらりと彼と『蟲』たちに降り立つ影。嫣然と微笑む魔王モルゴースの姿。


「アレでは其方の相手としては不足も不足、其方の相手はこの我こそが相応しかろう?」


そう言ってモルゴースは不敵に笑った。

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