Ep.6-105
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「あ、が……が、が、がががががが……な、にかが、俺の、中をォ……!?」
急に動きを停止した兵士が口元を押さえながら、うめき声をあげる。そんな彼の喉元が異様なまでに膨れ上がる。その様は、喉の中を巨大なナニカが上ってくるような、そんな様子に見えた。
男は、必死にそれを抑え込もうと口元を強く強く押さえつける。目の端には涙が浮かび、鼻からも、覆い隠された口からもごぽごぽと血があふれ出る。
そして次の瞬間、彼の頭蓋を突き破り赤黒い血にまみれた巨大なミミズのような触手のようなナニカが現れる。ソレが現れた瞬間、兵士の頭蓋も脳漿も全てが乾いた地面にぶちまけられる。
「おうおう、芸術的なまでの醜悪さだのう――我の大切なものに手を出した愚者の処刑には、やはりこの『蟲』がよい」
兵士の首があったところから生え出たどどめ色の触手――モルゴースのいうところの『蟲』はそのぼこぼことした肉の塊のような太く長い身体を振り回しながら、辺りの様子を伺う。見たところ、あの生き物には目は無いようで、ぱっくりと開いた口とギザギザした細かい歯が何列も並んでいるのが、唯一あの先端部分が頭部であることを物語っていた。
エリオスはその姿を見た瞬間、思わず口と鼻を押さえる。その醜悪な姿、全身から放つ悪臭。そのあまりのひどさにエリオスでさえも表情を歪ませる。
『蟲』は自身が生え出ている兵士の無惨な身体を見ると、躊躇うこともなくそのぱっくりと開いた口で外側からそれを食い荒らしていく。瞬く間に、『蟲』は兵士の身体を食い尽くす。
その様を見た、他の兵士たちはもだえ苦しみながらもその表情を凍り付かせる。
「ほれほれ、次々と孵るぞ――エリオス、そんな表情をしていないでこの見世物を楽しまんか」
モルゴースがそういうのと連動するように、次々に他の兵士たちの身体の各所を食い破って、同じような『蟲』がそれぞれにはい出てくる。凄惨にして醜悪な光景――そんな中、ひとり残されたアーノルドは唇をぶるぶると震わせ、荒れた息で魔王を見上げる。
「や、やめて……たす、けて……おねが……」
「ふふ、そんな表情をされると堪らなくなるのう。嗚呼、其方を最後まで残してよかった――だがな、其方は既に罪を犯した。ならば、裁かれねばならぬ。そうだろう?」
そう言って、モルゴースはアーノルドの頭を軽く撫でると、彼に背を向ける。
「待っ――」
魔王の背中に追いすがるように手を伸ばすアーノルド。しかしその手が何かをつかむことは無く、彼の涙も嗚咽も命乞いも、すべてすべて無に帰すように彼の胸部から『蟲』が、肉と骨を食い破って現れる。『蟲』はその鎌首をもたげて自身の宿主の絶望と苦痛にまみれた顔を目の無い頭部で見下ろす。そして次の瞬間、彼の口から発された最後の絶叫さえも呑み込むように、アーノルドを喰らいつくした。
そんな肉が食いちぎられ、骨が砕かれる音、そして消えゆく断末魔の三重奏に恍惚とした表情を浮かべながら、モルゴースはにんまりとした表情でエリオスを見遣った。




