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Ep.6-103

魔王が指を鳴らした瞬間、聖剣が煌めき出し、再び谷底の川から水の柱——否、最早水の蛇とでも言うべきモノが立ち上がる。それを確認すると、モルゴースは聖剣の切っ先をエリオスとは反対の方向、逃げ惑う兵士たちの方へと向ける。

その剣の先にいる兵士たち——おそらく鎧の形から見るにベルカ公国軍の者たち——は、恐れ慄きながら、我先にと仲間を掻き分け押し退けて、前へ前へと進もうとする。水の蛇はそんな兵士たちの群れの上から襲いかかり数人の兵士を絡め取り、飲み込んだ。

絡め取られた兵士たちは、蛇の胴の中——水流渦巻く中でじたばたともがいている。柱は更に兵士を飲み込もうとすることはなく、ゆっくりと魔王の前にその鎌首をもたげると、飲み込んだ兵士たちを吐き出した。

吐き出された兵士の一人が顔を上げる。そして次の瞬間、魔王と目が合ってしまった彼の顔は凍りつく。

そんな彼に、モルゴースは眉の端を吊り上げながら、皮肉っぽい笑みを口の端に浮かべる。その表情は今までエリオスに向けてきたものとは全く異なっていた。

モルゴースは目を細めながら兵士に笑いかける。


「——やあ、アーノルド。ずぶ濡れになって随分と良い男になったではないか」


「ぇ——は? な、なんで俺の名前を……?」


「知っているとも。なにせ我は其方らの為にここまで来たのだからな——全て、総て、見ていたのだから」


モルゴースの言葉をエリオスは理解出来なかった。魔王がなぜ、一介の兵士にそこまで執心するのか。しかし、アーノルドと呼ばれた兵士は、その言葉の意味を理解したかのように、その表情をみるみる青褪めさせる。


「ま、さか……」


アーノルドは振り返り、自分と共に連れてこられた兵士たちの面々を見て全身をがたがたと震わせ始める。歯の根が噛み合わないほどに怯える彼の顎を聖剣で掬い上げるように、モルゴースは自分の方を向かせる。


「おお、理解が早くて助かるな。それとも、『身に覚えがあるから』かのう。それならば、当然我が何のために其方らをここに連れてきたのか、わざんざこんなところに出向いたのか——もう分かっているのだろう?」


嫣然と微笑みながら、モルゴースは僅かにその顔をアーノルドに近づける。アーノルドは全身を震わせながらも、腰に佩びたナイフを引き抜いて、その顔を切り付けようとする。

しかし——


「おいたが過ぎるぞ」


柔らかなモルゴースの声が響いた。その瞬間、ナイフを持っていたアーノルドの右腕がぼとりと鈍い音を立てて地面に落ちる。


「ぇ——ひ、ぎぃぃぃぃッ!?」


鋭利な断面でもって切り落とされた自身の腕を見て、アーノルドは無様な悲鳴をあげ、その場に倒れ込んでのたうち回る。


「あー、もう。五月蝿いのう」


そう言って、モルゴースは自身の黒く尖ったブーツの先を、アーノルドの口の中に、ばきりという嫌な音をたてながら蹴り入れるように突っ込んで、声を封じる。


「——さて、我が民を嬲ってくれた礼だ。心して受け取るが良いぞ」


そう言って、モルゴースはもがくアーノルドの胸元に、その鋭く尖った爪を突き立てた。

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