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Ep.6-102

目前に迫る岩を見上げながらモルゴースは感心したような表情を浮かべる。

それから、ちらと視線を背後に向けると、その手に掴んだ聖剣を強く握りしめる。


「ハルヴァタート、仕事だ」


そう呟いた瞬間、聖剣が放つ青い光が一際強くなる。それとほとんど同時に、凄まじい爆音がモルゴースの背後から鳴り響く。

その爆音にエリオスは思わず表情を歪めて唇を噛み締めながら、一歩飛び退く。

その瞬間、モルゴースの背後に凄まじい勢いで噴き上がる水の柱が現れる。水の柱はモルゴースの眼前に迫り、その肢体を今まさに押し潰さんとしていた巨岩を絡めとって持ち上げる。

モルゴースはその様を満足げに見遣ると、聖剣の切っ先を真っ直ぐに巨岩の中心に定め向ける。その瞬間、水の柱は急に勢いを失い、形を無くした水は政権の刀身へと集い、染み込んでいく。


「砕け」


モルゴースが短くそう口にした瞬間、水を吸い込んだ聖剣の切先から、一筋の青い光線のようなモノが放たれた。否、輝いているが、アレは光線などではない。

アレは水だ。圧縮され、凄まじい勢いで放たれた水。極細の水流が、再び落下を開始した石の中心を穿った。そして次の瞬間、穿たれた巨石が大量の水と共に爆散する。


「——ッ!」


エリオスは軽く舌打ちをしながら右手を大きく目の前で薙いでみせる。その瞬間、空間がぱっくりと裂けて、黒い闇が口を開ける。『怠惰』の権能——開かれた異空間を盾として、エリオスは次々飛来する巨岩のカケラ達から身を守る。

しかし、それは精々エリオスを守るだけのもので、四方八方に飛び散った石のかけら達は、巨石を爆散させた凄まじい勢いの水流と共に周囲の兵士たちの肉体を抉り取っていく。

響き渡る絶叫、悲鳴、断末魔。

峡谷の道は地獄のような惨状と化す。

石のかけら達が全て地に落ちたのを確認すると、エリオスは軽く舌打ちしながら『怠惰』の権能を解き、モルゴースを睨みつける。

そんな彼の目線に嬉しそうな笑みを浮かべながら、モルゴースは口を開く。


「今のも其方のチカラのひとつか。なんとも多彩よな。聖剣相手でなければ手数だけであらゆる強者を圧倒できように。どうかな? やはり我に恭順しないか?」


余裕綽々のモルゴースにエリオスは腹立たしげに大地を軽く一蹴り。立ち上がる僅かな土煙を踏みにじりながら、一歩前へと歩み出る。


「——くどい。私の主人は一人だけだ」


「守れる者もその一人だけ、だがな」


「何?」


舌なめずりするようなモルゴースの視線と言葉に晒されて、エリオスは眉間に皺を寄せる。


「其方の戦い方は、己の腕の届くところまでの者を守るやり方だ。それは能力の話ではなく、其方の根幹の問題としてな。余裕がない時にこそ、そういう性質はよく出てくるものよな——ほれ」


そう言ってモルゴースが指差した先、そこには未だ苦悶の声を漏らし続ける兵士たちの姿。爆散した石の刃に身を抉られた者たち。


「其方は己とその主人とやらしか守らない、守れない。だから、我は本来の目的を早々に達することが出来る」


そう言うと、モルゴースは指をパチンと鳴らした。

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