Ep.3-6
ストックが切れそうデス……
跳ね橋が落とされた、音が低く昏く館の中に響いた。シャールは一瞬固まっていたがすぐに正気を取り戻すと、悔しそうに表情を歪めるアリアの横に立ってアメルタートを構える。
「——ッ!」
どん、どん。鉄の扉が鈍い音を立てながら揺れる。そして、その奥では何人もの男たちの「えい、えい」という掛け声。破城槌が大扉を破ろうとしているのだ。
大扉には、太く大きなかんぬきが掛けられてはいるがいつまでもは保つまい。
シャールはじりと、アリアの前に進み出て彼女を守るようにして剣を構え立つ。
そんなシャールに、ぽつりとこぼすようにアリアは尋ねた。
「ねぇ、アンタはどうするの?」
凪いだ水面のような、清廉だが起伏のない声だった。その声があまりにも彼女らしくなくて、シャールは思わず振り返る。そんな彼女にアリアは重ねて問う。
「アンタは……どうするの?」
「それは、どういう……?」
「あの扉が破られて、兵士たちがこの館になだれ込んで来た時。アンタはどうするの? アイツらの味方をして私をその剣で斬る?」
真っ直ぐな目でアリアは問いかける。その瞳があまりにも澄んでいて綺麗だったから、シャールは思わず息を呑み答えに窮する。
そんなシャールにアリアは重ねて問いかける。
「それともこの隙にここから逃げる? それとも何もしないでただ兵士たちに殺される? それとも———」
アリアは不意に凍ったような表情を緩め、そして自虐的にも自嘲的にも見えるような笑みを浮かべて、シャールに舐るような目を向ける。
「アンタは私を守ってくれる? 祖国の兵士に刃を向けて」
ざらりと心臓を舐られたような、そんな怖気が走った。アリアのその瞳が、その声が、その口元が、シャールの精神を犯すような色を帯びていた。
——自分はどうすればいい?
レブランクの国軍に刃を向ける?——それは祖国に刃を向けるのと同じこと。すなわち、自分に使命を与えた存在、自分の命に価値を与えてくれた存在への叛逆とも言える。そんなこと、許されるはずはない。
ならどうすればいい?——逃げるのも、ただ殺されるのも、ルカントたちの遺骸を前に立てた誓いを、背負った役割を踏み躙るようで。
なら殺す? 目の前で、悲壮な笑みを浮かべた少女を。
そうだ、殺せばいい。彼女は敵だ。倒すべき敵の『ご主人様』、彼の唯一の身内。そうすれば、例えその後に自分が——エリオスにか、兵士たちにかは分からないが——殺されたとしても、彼に一矢報いることはできる。
アメルタートを握る手に力が籠る。
暗い館の黒々とした空間で、強い力が扉を破ろうとする音が響く中、若草色の光がぼんやりと浮かび上がった。
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