Ep.6-90
「——ッ!」
ユーラリアの言葉にアーノルドは、屈辱でぶるぶると唇を震わせる。アーノルドは周囲の仲間たちを睨みつける。すると彼らも、自分達がアーノルドと同じ境遇にあることを悟る。彼らもまた、唇を噛み締めながらよたよたとした足取りでアーノルドの横に並ぶと、ちらちらと彼の次の動きを窺う。
視線を受けるアーノルドは立ったまま頭を下げようとするが、その前にちらとユーラリアの顔色を窺う。そんな彼の視線に気が付いたユーラリアはあからさまに、わざとらしく不満げな顔を浮かべてみせる。
それを見たアーノルドは、顔を真っ赤にしながら拳を血がにじむほどに握りしめながら、その場で膝を地につく。
「――ま、ことに……」
震える声で、途切れ途切れに音を発しながらアーノルドは両手を地につける。そして、壊れかけのカラクリ仕掛けの人形のような、軋む音が聞こえてきそうな動きで額を岩場の硬く冷たい地面に擦り付けた。
「もう、しわけ……ありま、せんでした……」
土下座をしながら絞り出すように苦しげな声でそう言ったアーノルド。その横で、彼の仲間たちも同様に土下座してみせる。
「——ッ!」
それを見た魔人の子供たちは、思わず息を呑み複雑な表情を浮かべた。正直に言って、彼らに反省の意思などありはしないし、魔人に対する差別的な感情には微塵の揺らぎもない。
ただ、自分達の命や人生のためにこの場は誇りや自分の思想を捨てて、頭を形だけとはいえ下げているに過ぎない。
それは後ろからその姿を見ているシャールたちにも、正面からそのかりそめの謝罪を受けている彼らも、そしてそんな彼らを見下ろすユーラリアも承知していることだった。
魔人の子供たちからすれば、そんなモノで許せることでは無い。彼らは尊厳を踏み躙られた挙句、殺されかけたのだから。しかし、ここで彼らを許さないという選択をすれば、さらに面倒なことになるというのも聡い彼らは分かっている。それ故に、彼らは逡巡し、どう答えるべきか決めかねていた。
そんな中、ユーラリアはぱんと手を叩き、口を開く。
「——嗚呼、アーノルド。ちゃんと自分の罪を謝罪できるのは素晴らしいことです。ええ、ええ。きっと貴方はこの地の瘴気に侵されてしまっていたのでしょう。それでも己の非を認め、悔いたる貴方を神もきっとお許しになるでしょう——ですから、このことは綺麗に忘れて……神の軍の一員として励みなさい」
綺麗に忘れて——というユーラリアの言葉に、アーノルドはぴくりと身体を震わせる。それはつまり、このことは口外無用ということ。下手にしゃべって混乱を生じさせようものなら容赦なく断罪すると言う宣告に他ならない。
アーノルドは唇を強く噛み締めながら立ち上がると、踵を返して野営地の方へと早足で戻っていく。それを追うように、彼の仲間もまた駆けていく。
そんな彼らを見送りながら、ユーラリアは「ほう」と小さくため息を吐いた。
そういえば、前のパートが全体で500パート目だったようです。




