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大罪踏破のピカレスク~人間に絶望したので、女神から授かった能力で誰よりも悪役らしく生きていきます  作者: 鎖比羅千里
Episode.1 The fate of people who Enter into the palace of Villain...
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Ep.1-3

延々と続くかと思えた深緑の中の行軍はふいに終わりを告げる。ひしめくような樹木と蔦の天幕が開けた先、そこに佇むモノを見てルカントたちは立ち止まる。


「――ここか」


ルカントはソレを見上げてそう重苦しくつぶやいた。


彼らの視線の先にあったのは黒い館――いや、その規模や備えはもはや小さな城と言ってもいいほどだ。

設えられた跳ね橋や堀、屹立した尖塔や、どっしりとした石壁は堅牢な印象を受け、これから攻め入る者には心理的な圧迫を与える。全体として黒々としたゴシック様式の全体像は、シンプルで小綺麗としていながらもどこか幽鬼でも住むかのような得体の知れなさを感じさせ、流石のルカントもわずかにたじろぐ。


「――不気味ですわねぇ」


そう言いながらリリスは片手に杖を構える。アグナッツォやミリアもまた、何も言わないまでも警戒態勢をとる。いつどこに罠が仕掛けられているのか、誰に、何に襲われるかも分からないのだ。シャールもまた、戦えないなりに周囲に出来る限りの注意を払う。


「では皆、行くぞ――!?」


そう言って作戦開始の号令をかけようとしようとしたその瞬間、ルカントは思わず絶句する。


彼らの視線の先で、ぎいぎいと音を立てながら跳ね橋が下りる。それと同時に城門も血の底で獣が唸るような音と共にひとりでに動き始めたのだ。両開きの重厚な鉄扉が開くとその先は真っ暗で、まるで巨大な黒い化け物が大きく口を開けているかのような闇が広がっていた。


一行に緊張が走る――何か飛び出てくるんじゃないか、そんな風にも考えたが、いくら待っても何かが起きる様子はない。


「――なにを、考えてやがるんですかねぇ‥‥‥奴さんは」


アグナッツォはそうぼやきながら辺りを見渡す。

自分たちの注意を城門に引きつけて、周囲の茂みから騙し討ちでもするのかと警戒をしてみたが、どうにもそんな気配はない。城門までの道のりに目を凝らしても、やはりそこには罠らしき罠も、それらを仕掛ける余地もない。

――まるで本当にただ客人を招き入れているだけかのようなふるまい。


「建築物への魔術式の付与‥‥‥それとも遠隔での物体操作術? どちらにしても、あんな巨大なものをたやすく動かすというのは、並大抵の魔術師の業ではありませんわね。おそらく、表の社会で生きていれば大陸でも指折りの術者になっていたでしょう」


城門や跳ね橋の様子を遠くから観察しながら、自らの知見に基づく分析を口にするリリス。その瞳からは、少し前のルカントに甘えていた時の艶めいた色は消え失せ、学者然とした理性の光が宿っていた。

怖気づいた、というわけではないようだがそれでもやはりリリスはどこか不安に表情を曇らせていた。そんな彼女の不安を打ち払うように、その隣でミリアが鼻を鳴らす。


「フン――そんなの、なんてことないわ! 私たちはレブランク王国の勇者一行、お招き頂けるのなら正面から乗り込んでぶちのめすだけ――そうでしょ、ルカント様?」


ミリアはそう言ってルカントに視線を送る。豪気な彼女の瞳にルカントはわずかにほほ笑んでから、気を持ち直して、彼女の言葉にうなずいた。幼馴染である彼女の言葉は、昔からすっと胸に入ってくるものだ――そんなことを思いながら、ルカントは剣を抜く。


「では、魔術師殿のお招きにあずかるとしようか、諸君」

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