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Ep.6-85

「正直に申し上げると、私はどちらに味方をしようか、最初は少し迷っていたのです」


ユーラリアは苦笑を漏らしながら、そう切り出した。その言葉に、シャールは少し驚いた。ユーラリアは常に泰然としていて、まるでこの世のなにもかもを知り尽くし、そのうえで自らの採るべき途もすべて事前に決めている――迷ったり悩んだりすることのない人間だと思っていたから。


「私の心情としては、この子たちを巻き込みたくないというのが本心であり、それが正しいと思っています――しかし、私はこうして軍の最高指揮権を預かってはいますが、所詮は人生の大半を神殿で過ごした身。戦場の常識、戦場の論理は私には身についていません。その論理においては、もしかしたら私の感情など、不合理でしかないのかもしれないとさえ思えた。ゆえに、どうするべきなのか分からなかった」


わざとらしく肩を竦めながら、そう語るユーラリア。ゆったりとアーノルドとシャールを交互に見遣る。


「だから、私は託してみようかと思ったのです。貴方たちの対話の結末に――彼らの命と、私の決断を」


そう言ったユーラリアの顔は、口元こそ笑っていて、目元だって穏やかなはずなのになぜかとても冷たかった。発した言葉もまた冷厳で、シャールはその冷たさにぞくりと悪寒すら感じた。

ユーラリアはそんな風に息を呑むシャールを見ながら、微笑を浮かべて話を続ける。


「盗み聞きなんてお行儀の悪いことですけど、アーノルドとシャールの議論はとても興味深いものでした。それこそ本当に彼らの命をその議論の結果如何で左右していいと思うほどに――噓や冗談ではありませんよ? 私、場合によっては本当にこの子たちを自ら手に掛けてもいいと思っていたのですから」


彼女は相変わらず笑みを浮かべたまま語るけれど、その言葉にシャールや魔人の子供たち、そしてリリスやエリシア、アーノルドたちでさえ青ざめる。彼女の言葉がどこまで本気なのか――弁論に長けた彼女のことだから、虚実綯い交ぜにしているのだろうとは思うけれど、それでもその言葉から垣間見える彼女の人間性には恐ろしいものがある。

一歩踏み間違えれば、わずかに角度がずれていれば――絶対的な庇護者にも絶望的な略奪者にもなり得るし、彼女自身そうなりうる自分を認識し、それを許容している。彼女が言っているのは、つまりそういうことだ。

もはやその在り方は善悪の彼岸すら超えたもの――あえて比喩するのならば、神のような在り方。もはやその是非や善悪、功罪を問うのも馬鹿らしく思える。

それでも、彼女が当初は魔人の子供たちを「巻き込みたくない」と考えていてくれたこと――そういう人間性が根幹にあることは、シャールたちにとっても救いだった。

冗談めかすような言葉だけで、居並ぶ男も女も子供も吞み込んでしまったユーラリアは、不意に笑みを消した。そして、ちらとアーノルドを見遣りため息を吐く。


「とはいえ、すでに結果は出ました。尤も、私としてはいささかつまらない幕引きでしたがね」


そう吐き捨てるように言った彼女の眼は、研ぎ澄まされたナイフのように鋭く冷たかった。

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