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Ep.6-79

「それでも、私は彼らを殺したくない。彼らに傷ついて欲しくはない」


シャールはぽつりとつぶやくようにそう言った。そんな彼女の言葉に、男はやれやれと肩を竦め、露骨にため息を吐いて見せる。


「分かりませんかねえ? 戦争とはこういうものなんですよ。これこそが正しい戦争との向き合い方、それは動かない真理なんだ!」


男は苛立った様子で吐き捨てる。まるで聞き分けの無い子供と相対しているかのような、疲れすら感じさせる振る舞い。これ以上語っても無駄なのだろうという諦観と、頭の悪い小娘だと見下す侮蔑を感じさせる。

確かに彼の理屈からすれば、自分は物分かりが悪く、現実を知らないで理想論ばかり唱え、感情論に流される害悪の如き小娘なのだろう。

だが、それがどうしたというのか——


「貴方の言うことは筋が通っている。それは認めますし、私も理解しています。でも、私はそれが正義だなんて思えない。罪のない子供を殺すことが正しいなんて口が裂けても言えない」


「だ、か、ら! それが戦争ってもんだと俺は再三——」


「そう、貴方はそれが戦争なのだと言った。戦場の慣い、戦時の秩序、戦争の真理——でも、それがどうして無辜の命を奪って良いという理屈(コト)になるんですか?」


シャールの言葉に、男は思わず言葉に詰まる。饒舌だった彼の言葉が痞える様に、その仲間たちも表情を歪める。


「それ、は——」


「戦場の論理は私たち、戦争をする者たちのもの。でも、彼らはそうじゃない。戦う意志だって持ち合わせてはいないんです。それなのに、その論理を彼ら、戦に関係のない者たちに押し付け振りまき、あまつさえそれに基づいて命を奪うなんて――それはもはや正義か否かなんて言う次元の問題ではありません。そんなモノはただの厄災です」


「――ッ!」


男はシャールの言葉に青筋を立て、握りしめた拳をぶるぶると震わせる。きっと彼は怒っているのだろう。それが、シャールの言葉を侮辱ととらえたが故に出たものなのか、あるいは言い負かされたことへの屈辱なのかは判然としなかったけれど、それでも彼は怒りを滾らせていた。

そんな彼に、シャールはさらに追撃する。


「貴方は、徹底的に奪い、支配することこそ戦場の真理であると言いましたね。でも、そんなものは、我々にとって都合のいい言い訳に過ぎない。『真理』だなんて烏滸がましい――そんな言い訳で、戦争と関係のない子たちの命を奪うことはやっぱり私には許せません」


シャールの言葉に、わなわなと震えていた男が不意にピクリと動きを止める。

そして伏せていた顔を上げて、シャールを睨みつける。そして彼はゆっくりと腰に掛けた剣に手を伸ばした。


「――ぐちぐちぐちぐちうるせえなあ……ったく、これだから優等生気取っているやつは嫌いなんだよ。理屈に理屈を重ねて有耶無耶に。ったく、頭が痛くなるし気分も悪くなる」


そう言って、男は剣を抜く。シャールたちは思わず身構えた。

そんな彼女たちをあざ笑いながら、男はかぶりを振る。


「安心しろよ。アンタらに斬りかかるほど俺の頭はイカれちゃいねえ。頭のお弱い小娘共とはいえ、客将として迎えられるような連中だ。俺みたいな雑兵じゃあ、一瞬でボロ雑巾だ――だからよお、俺はあくまで俺の仕事をこなさせてもらうぜ」


そう言って、男は地面にぐったりと倒れた山羊角の少年の方をちらと見て、口の端を吊り上げた。

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