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Ep.3-4

「え——」


シャールは一瞬自分が誰に何をされたのかが分からなかった。矢が、どうして? 誰が撃ったの? エリオス? 違う。矢は正面から飛んできた。ということは――

そこまで考えた瞬間、身体をようやく激痛が走った。


「あぐ‥‥‥あぁ、あああ!」


苦悶の声を上げ、シャールはその場に崩れ落ちる。痛い、痛い。ただの矢ではない、何か毒のようなものでも塗られているのだろうか。心臓の動きがどくんどくんと早まっていくのを感じる。

それでもシャールは、よろめきながら手すりにつかまって立ち上がり、眼下の兵士たちの方を見る。その中に、一人弓に矢を番えこちらを睨みつけている兵士がいた。きっと彼が撃ったのだ。どうして―――?


「ど、どうして――私は、みんなに逃げて欲しい、生きて欲しい―――なのに!」


「黙れッ――この裏切者!」


兵士の一人が叫んだ。

――裏切者? 誰のコト?

頭の中が、真っ白になる。言葉の意味が捉えられない。そんな彼女に、兵士は更に言葉を投げつける。


「お前が、お前がルカント様を裏切って殺したんだろう!」


――お前? お前って誰のコト?

ぐらぐらと足元が崩れ落ちていくような錯覚。足に力が入らない。シャールは頭を押さえながら、何とか手すりにもたれて立った姿勢を維持する。


「こ‥‥‥国賊!」 

「人類の敵!」 

「この悪魔め!」


矢を射た兵士の言葉につられて、怨嗟と憎悪の声が兵士たちの間から次々に立ち上る。射殺すような視線が幾千も、自分に向けられているという事実にシャールは愕然とする。


「な、なんで……違う、私……私は」


どうしてそんなことを言うの? 私はそんなことしてないのに。あなたが何を知っていると言うの? 私は、私は……一生懸命頑張って、命をかけて、残された自分の使命を果たそうと——ぐわんぐわんとシャールの頭の中ではそんな思いが鳴り響き、不協和音を奏でる。

シャールは自分の頬に、冷たいものが伝うのを感じた。いよいよ、手すりにもたれる力すら抜けて、シャールはその場に崩れ落ちた。

一番の大声で「違う」と叫びたい、自分は頑張っているんだと主張したい。それでも流れ出す涙が、漏れ出る嗚咽が、口にしようとした言葉を彼方へと押し流してしまうから、何も言葉に出来ずシャールはただ打ちひしがれる。

そんな彼女に向かって、兵士たちは石や木を投げつける。中には弓矢を向けているものもいる。


「———ッ!」


拳ほどの石が頭を掠めた。木の枝が、頬にぶつかり白く柔らかな肌を裂いた。矢が手すりの隙間から脚に突き刺さる。

それでもシャールはその場に崩れ落ちたまま動けないでいた。


「まずはあの反逆者を殺せェ!!」


指揮官であろう、豪奢な鎧をつけた騎士が号令をかけると一斉に数十人の兵士たちがシャールに向けて矢を構える。

それでもシャールは動かなかった。いや、動けなかった。まるでそれまで彼女を動かしてきた糸がぷつりと切れてしまったように。


矢が放たれ、その尖った先端がシャールに迫る。その瞬間——

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