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Ep.6-78

「――ま、待ってくださいエリシア! せ、聖剣は収めてください!」


シャールは今にも兵士たちに斬りかかりそうなほどに殺意に満ちたエリシアの袖を引っ張って、何とかその凶行を思いとどまらせようとする。エリシアはそんなシャールの言葉を容れて、刃は収めたもののその鋭い眼光は相変わらず、兵士たちを貫いていた。

そんな中、兵士の一人が一歩進み出る。その顔には、エリシアが刃を収めたからか、あるいは自分たちを見咎めたのが女しかいなかったからか分からないが、やけに緩んだ笑みが浮かんでいた。


「やだなあ、聖剣使いサマ。冗談ですよ、冗談。我々、神の教えと世界を守る魔王討伐軍の聖なる兵士ですよ? そんなこと本当にするわけないじゃないですか」


「はあ?」


「ほら、魔人はちゃあんと殺してこそ。売りさばいたりなんてしたら、その種を世界にばらまくようなものですからね。しません、しませんよ?」


男はへらへらと笑いながらそう言った。その言葉に、エリシアは眉間にしわを寄せながら問う。


「君は――本気で言っているのか?」


「――? ああ、もしかして売り飛ばすという戯言だけを怒ってらっしゃったわけではない? まさか、こいつらを殺すこと自体を怒ってらっしゃる?」


男は冷たい笑みを浮かべながら、嘲るような笑みをエリシアたちに向けてくる。そして、仲間たちに視線をちらちらと向ける。すると、彼らも乾いた笑い声をあげる。


「何がおかしい?」


「アンタの頭がおかしいっていう話ですよ聖剣使いサマ。なんで魔人を助けようとしてるんですか。こいつらは敵ですよ?」


「――ッ!」


エリシアは男の言葉に、思わず言葉を詰まらせる。

彼らの言葉はある種予想していたものではあった。確かに彼らは人に近い姿はしているが、どこまでいっても異形。魔王の支配下にある存在だ。確かに、「魔人」が「敵」であるという式は間違いではない。だが、それは種としての、多数派たる「魔人」がそうだというだけだ。この子どもたちについていえば必ずしも「敵」だなんていいきれないはずだ。


「この子たちは敵なんかじゃありません。ちゃんと話も通じるし、助けられれば感謝もできる。その心は私たち人間と何も変わらない。街の子供と何も変わらない彼らを、そんな風に嬲る権利なんてないはずです。ましてやその命を奪うなんてこと……」


「――やっぱり、アンタも何も分かってないな。客将なんてもてはやされているけど、所詮は戦を知らない小娘か」


「なんです……?」


冷笑する男にシャールは眉間にしわを寄せる。そんな彼女たちに、男は眉をいからせながら侮蔑に満ちた声で口を開く。


「いいですかお嬢さん方。戦っていうのは徹底的に敵を叩いてこそ、なんですよ。徹底的に奪い、殺し、辱め、抵抗する意思を完膚なきまでに打ち砕いて、土地も精神も占領して支配する。それが戦争です、そうでなくてはいつまでも戦いは終わらない」


「――ッ! でも、子供たちは……!」


「子供だって同じですよ。アンタがさっき言ったんでしょう、人間と何も変わらないと。人間と何も変わらないのなら、人間と同じようにされたことは忘れない。いつか復讐をたくらむかもしれない。だから、その意思を圧倒的な蹂躙で摘み取り、徹底的に敗者としてのあるべき姿を刻み込むことで塗りつぶす! それこそが必要なんですよ」


男の言葉は重かった。彼の本心がそこにあるのかは分からない。しかし、その言葉は軍人としてここまで歩んできた彼の人生で得た知見に裏打ちされた無視しがたいものだった。

それでも――

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