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Ep.6-74

「——どうしたの、これ?」


シャールは、ロアと呼ばれた少女の赤紫色に腫れた脚を見て、思わず彼女に駆け寄った。ロアはびくりと震えたが、どこかおろおろとした様子で患部を心配そうに見つめるシャールをじっと見つめる。

シャールはそっと、痛ませないように彼女の患部に触る。腫れた部分は、不健康な熱を帯びている。


「捻ったのかな……それとも……」


「岩から……落ちちゃったんです。あそこから……」


そう言って彼女が指し示したのは、成人男性の背丈の2倍はあろうかという高さの大岩。

あの高さから、この硬い岩場に落ちたとなれば、それは確かに大怪我を負いかねない。むしろ、頭を打っていなくてよかったと、不幸中の幸いにすら感じる。

シャールは、ロアの目を見ながら口を開く。


「どうしてあんな岩に?」


「たくさん、人間がいて……私、木登りとか得意だから……目もいいし……岩に登って様子を見ようと思って……そしたら、人間と目が合った気がして……びっくりして……怖くなって……」


「それで落ちちゃったのか。そっか、痛かったし怖かったよね」


シャールがそう言ってロアの頭を撫でると、ロアはわずかに涙ぐみ、嗚咽を漏らす。不安で仕方なかったのだろう、こんな人間がたくさんいる近くで脚を怪我して、もしかしたら人間に見つかったかも知れないと不安を感じながら、それでも自分が友達の足を引っ張ってしまっているのに泣けるものかと葛藤していたのだろう。そんな彼女の密かな戦いに、シャールは目を細める。


「——捻挫……それとも骨折?」


「見せて」


患部を見て首を傾げるシャールに、エリシアはそう言いながら彼女の隣に膝をつく。そして、ロアに目線を合わせながら問いかける。


「少し痛むよ。我慢できる?」


ロアは一瞬迷ったような表情を浮かべたが、すぐに頷く。それを見て、わずかに微笑むとそっと彼女の患部に触れる。


「くぅ……っ!」


ロアは一瞬痛みに顔を歪めて悲鳴を上げたが、すぐに唇をかみしめて声を押し殺す。そんな様子を見ながらエリシアは手早く患部の様子を探っていく。


「見た感じ、どうやら少し酷めの捻挫って感じだね。骨は、多分折れてなさそう」


「分かるんですね、そういうの」


「スラム育ちだからね。周りに怪我人も多くて、それぞれどういう症状になるかってくらいは何となく。ま、正しいかは分からないけど」


そう言いながらエリシアはちらと背後に立っていたリリスの方を振り返る。


「というわけなんだけど、この子の治療を頼めるかな? リリスちゃん」


エリシアの言葉に、リリスは小さくため息を吐くと彼女を手で追払いながらロアの前にしゃがみ込む。


「全く、軽々しく言いますわね。治療の魔術ってそんなに安いものじゃあないのですけど——まあ、並の魔術師にとっては、ですけど」


そう言いながら、リリスはそっとロアの脚に触れると目を閉じて魔力を流し込む。すると、みるみる彼女の患部の腫れが引いていき、その表情も痛みから解放されていく。


「——立ってみなさいな」


リリスはそう言うと、ロアの手を取り立ち上がらせる。


「——ぁ……痛くない」


ロアは驚いたような表情でそう零した。そして、嬉しそうに怪我をした脚を動かして見せる。それでも彼女の表情が痛みに歪むことはない。

そんな様子に、シャールとエリシア、そしてリリスは顔を見合わせて笑った。

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