Ep.6-73
アメルタートの蔦から解放された少年と、他の二人の魔人の少女を前にして、シャールはどう彼らにアプローチしたものかと思案する。
「痛い目に合わせてごめんね。でも、私たちは貴方たちを傷つけるつもりはないの——信じてもらえるかは分からないけど」
シャールはどこか自信なさげに目を伏せながら、そう言って、未だに痛みを感じているのであろう少年の頭を撫でた。
そんな彼女の手を、少年は頬を赤らめながら振り払い飛び退く。
「……お前たちは魔王様の敵だ。魔人や魔物の敵だ。そんな言葉、信じられる訳ない」
「そう……だよね」
ストレートな敵意にシャールは胸に冷たい氷柱が突き刺されるような感覚に襲われる。それでもなお、シャールは少年を真っ直ぐに見つめていた。
少年はそんな彼女の姿にきまりの悪そうな表情を一瞬浮かべながらも、すぐに表情を険しいものに戻して、シャールたちを睨みつける。
背後の少女たちは怯えた様子でそんな二人の対峙する様を見つめていた。
そんな彼らの様子を見て、シャールはわずかに唇を噛むと、腰の聖剣に手を伸ばす。
彼女の右手が動くのを見て、三人の魔人の子たちは顔を引き攣らせる。
斬られる、殺される——そう思ったのだろうか。
「大丈夫だよ」
シャールはそう言って、目を細めると聖剣を鞘ごと腰から外して地面に置いた。そんな彼女の振る舞いに、魔人の少年少女は驚いたような表情を浮かべる。
「私は、私たちは君たちを傷つけない。ここにはね、君たちにここから離れてもらいたくて来たの。この近くに、今私たちの軍が野営をしてる。十万人近い兵士たちがいるの。もしその兵士たちに見つかったら、彼らが私たちと同じように君たちを見逃すかは分からない——もしかしたら、本当に君たちを魔人だからと言って傷つける人もいるかも知れない」
その言葉に、三人はきゅっと歯を噛み締める。恐ろしいのだろう。それはそうだ、自分たちを傷つけるかも知れない存在が、また鼻の先にそんな数いると知れたら、それは恐ろしい。人間の目線から見れば、同数の魔人や魔物がすぐそばにいるというのと同じことなのだから。
怯える三人に視線を合わせて、シャールは僅かに微笑む。
「君たち、どこに住んでいるの?」
三人は顔を見合わせて、それから頷きあう。
「この岩場を抜けた先の、森の中。森で隠れた村があるの」
金髪の尖った耳の少女がそう言った。言っていいのか、相当に悩んだだろうに、素直にそれを伝えてくれたことにシャールは少し嬉しくなった。信じてもらえたのかな、と自惚れてしまう。
シャールは柔らかな笑顔を零しながら、小さく頷いた。
「うん。それなら、君たちは村に早く帰ろう。そのルートなら、私たちの道行きからは外れているから」
「……ダメなんだ」
シャールの言葉を黒髪の少年が否定する。彼は沈鬱な表情を浮かべ、目線を下げた。
そんな彼にシャールは問いかける。
「どうして?」
彼女の問いかけに、少年は苦しげに呟くように答える。
「ロアが、怪我をしてるから……」
少年はそう言って背後の青い肌をした少女を振り返る。彼女の脚——足首は赤紫色に腫れ上がっていた。




