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Ep.6-72

「——本当に、子どもだったんだ」


シャールは思わずそう呟いた。

彼女たちの視線の先には、幼い子供のような姿をした何者かが三人。人間——ではないように見えた。

皆それぞれ少しずつ異なっているが、明らかに人間とは異なる特徴を持っていた。

黒髪の少年には、山羊のような耳と捩れた一対の角が側頭部から生えているし、くすんだ金色の長髪を揺らす少女の耳は尖っていて、背中には薄い蜻蛉のような羽が生えている。もう一人の白い短髪の少女の肌は青っぽく、白目が黒く虹彩が赤く、牛のような一対の角が側頭部から生えている。

魔人——なのだろうと、シャールは直感した。


「な、なんだよお前ら!」


山羊角の少年が、呆けたような表情のシャールたちに向かって叫ぶ。他の二人の前に立って、両手を広げ守るような格好をして見せる。

しかし、そんな彼の広げた手の指も、大地を踏みしめる脚も震えている。

声は幼くあどけないアルト。きっとさっき聞こえていたのは彼の声なのだろう。

シャールは、動揺しながらも、自分が剣の切先を彼らに向けていることに気がついてすぐにそれを引っ込めるように地面に向ける。

シャールには、彼が斥候や奇襲のための兵には見えなかったからだ。

そんな彼女に倣うように、エリシアも聖剣の切先を彼らから逸らし、リリスも杖を収める。

それから、三人はちらと顔を見合わせる。誰がこの勇気ある少年の言葉に応じるか探り合うように。結局、歳が一番近そうなシャールが答えることになった。


「えっと……私たちは、人間、です」


「人間……じゃあ、外の大陸から来た……魔王様を……」


「——はい。私たちは魔王を討伐しに来た軍の一員です」


何らかの形で誤魔化すべきだったのかもしれないけれど、シャールは彼の真剣な視線に負けて本当のことを思わず口にする。

それを聞いた瞬間、少年の震えがいっそう強くなる。


「——ッ! か、覚悟しろ! 人間ッ!」


そう叫ぶと少年は足元の大きめの石を拾い上げ、それをシャールの顔に向けて投げつける。目の前に迫る石に、シャールは思わず表情をこわばらせる。防ぐための手が追いつかず、シャールには聖剣を強く握りしめることしかできなかった。

しかし次の瞬間、二人の間に走った稲妻によって、それは砂のように砕け散る。


「おいたはダメ、ですわよ。坊や」


リリスはそう冷たくそう言うと、細めた目で少年を見つめる。その視線に震え上がりながらも、それでもなお少年はちらと背後の少女二人を見て、歯を食いしばり再び石を拾ってシャールに投げつけようとする。

しかし、その次の瞬間彼の足元の岩の隙間から、巨大な緑の蔦が触手のように蠢きながら這い出て、彼の四肢を絡めとる。


「な!? 何だよ、コレ——! い、痛い痛い痛いッ!」


絡め取られた少年の身体はいとも容易く空中へと持ち上げられる。蔦はなおも蠢き続け、それが動くたびに彼の肩や肘、腰や膝の関節をあらぬ方向へと曲げようとしていく。

少年は痛みに思わず絶叫をあげる。

シャールは数瞬経ってから、それが自分の握りしめたアメルタートの仕業であることに気がついた。

石を投げつけられそうになった時に、聖剣の柄を強く握りしめたことで魔力が流れ、本能的に自身を害そうとする存在として認識していた彼を捕らえさせたのだろう。


「——ッ! アメルタート、やめて! もういい!」


シャールがそう叫び、剣を鞘に戻すと蔦は緑の粒子となって霧散し、彼は岩場に落下した。そんな彼をシャールはなんとか抱き止める。

そして、彼の未だに痛みに苦しむ顔を見つめながら、悲しげな顔で口を開く。


「——ごめんね。でも、お願い。少しだけ話を聞いてほしいの」

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