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Ep.6-68

ユーラリアたちが兵士の労いに出かけていくのを見送ったシャールは、羽織っていた外套のフードを目深に被って歩き出す。

パチパチと燃える焚き火の音、和やかな談笑の声が響く夜の野営地の中をシャールは足速に歩いていく。馬に乗っていたとは言え、ここまでの行軍でシャールの身体には随分と疲労が溜まってしまっていた。シャールは談笑したり武器の手入れをしたりする兵士たちの間を縫いながら、自身にあてがわれたテントがある方へと進んでいく。


「や、シャール。おつかれさま」


テントに入ったシャールを迎えたのは、快活に笑うエリシアだった。

彼女はゆっくりとくつろいだ様子で、テントの中に敷かれた絨毯の上で胡座をかいている。そんな彼女の姿にシャールは少しほっとしたような息を漏らす。

こうして彼女と言葉を交わすのは久しぶりな気がする。大港湾で軍艦に分かれて乗ってから、こっち彼女の姿を目にすることはあっても会話をすることはなかった。軍議の席に彼女が現れなかったからだ。ユーラリアやレイチェルも、基本的にはそれを是として彼女がいないままに軍議を進めていた。


「エリシアは軍議の招集は掛からなかったんですか?」


シャールが問いかけると、エリシアはどこかきまりの悪そうな顔を浮かべて頭を掻く。


「いや……一応声は掛かってたんだけどね。ほら、ボクって別にそんなに頭がいいわけじゃあないから、軍議の席にいても話を聞いても右から左へって感じになりそうだし、それなら別にいなくてもいいかなって。そういう風にレイチェルちゃんに伝えたら、じゃあ軍議の間は見張りをしてろって言われちゃってさ」


そう言ってエリシアは肩をすくめる。「もう少し引き止めてくれてもいいのに」などとくすくすと笑いながら嘯く彼女の言葉にシャールの表情も緩んだ。

行軍中のエリオスの言葉のせいか、敵が現れないことを祈っていた彼女の精神は、彼女自身が思っていた以上に凝り固まってしまっていたようだった。それが、エリシアのどこか緩い空気感によって解されていくのがどこか心地よかった。


「一応このテント、もう一人来る予定なんだよね」


エリシアは胡座をかいたまま、テントの布扉をちらと見遣る。ちょうど彼女がそんな話をしたタイミングで、細く白い指が布扉を開けた。


「こんばんは、入ってもよろしいかしら?」


艶やかな長髪を揺らしながら入ってきたのは、リリスだった。なるほど、もう一人というのは彼女のことだったのか。


「リリス様!」


「ああ、シャール。そう、貴女もこのテントだったのね。良かったわ」


そう言ってリリスは安堵したような笑顔を浮かべる。確かにこの狭いテントの中で、見ず知らず、言葉を交わしたこともない人と一夜を過ごすというのは、例え同性同士であったとしても、人見知りのきらいのあるリリスにはしんどいものがあるだろう。

そんな風に笑いあうリリスとシャールを交互に見やりながら、エリシアは少し唇を尖らせる。


「ちょっとぉ、そこだけで盛り上がらないでよね?」


子供っぽく舌ったらずな口調でそう言う。どこか拗ねたような彼女の姿にシャールは思わず吹き出してしまう。


「あ、ちょっとシャール! 笑ってないでその美人をボクにも紹介しろぉ——!」


そんなエリシアの言葉はテントの外まで響いた。

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