Ep.6-65
エリオスはちらと辺りを見渡し、兵士たちの動きを確認しつつ再びシャールの方を向き直る。
「それじゃあ、らしくないついでに、もう一つらしくない話をしよう。講義の〆と思ってくれればいい。魔人についての話だ。きっとこれは、君が戦う上で必ずぶち当たるモノだから」
エリオスはそう言って目を細める。その語りだしにシャールはどこか不安を感じる。
「窮極的に言えばね、魔人っていうのは人間とよく似ているんだ。それはヒト型という意味だけじゃない。その社会性や多様性、そう言ったモノを含めて、とてもヒトと似た生き物だ」
「……ッ」
その言葉は、シャールにとってはほとんど自明のことであった。だが、エリオスの口からそう語られるだけで、ぼんやりとしていた恐れの輪郭がはっきりとし始める。
「社会を作り、子を育み、繋がりを求める。魔人だなんて言うけどね、結局のところ人間より少し、強い人間の亜種たる生き物に他ならない。それこそ、肌の色や身体の細々としたところが人間に近い者なら、人の世界に紛れ込み、生活を送れる程度にはね」
「それが……何だって言うんです? これは、戦争なんです」
シャールはエリオスの言いたいことが薄々分かってきていた。それでも気勢を張って、エリオスにそう返す。すると、エリオスは薄らと口の端に笑みを浮かべて頷く。
「その通り、これは戦争……戦争なんだ。だから、これから君が殺すであろう魔人には、家族がいるかもしれないし、友人がいるかもしれない。魔人といえど幼少の者は弱くて、ただの人間の雑兵であっても好きに弄べるだろう。私たちが彼らを殺すことで、勝利することで、そんな幼い魔人たちが奴隷や慰み者になることだってあるだろうね。ま、敗者の末路って言えばそれまでだけど」
「——ッ! 貴方は、この戦争に反対しているんですか? 貴方が……それを語るんですか!?」
シャールは思わず叫ぶ。辺りの兵士たちは僅かにざわめきながらこちらを見ている。それに気がついたシャールは思わず口を噤んで俯く。
そんな彼女にエリオスは薄らな笑みを浮かべたまま、ゆるゆるとかぶりを振る。
「別に。私はこの戦争に賛否の意見など持っていないよ。ただ、私の目的のためにこの機会を利用するだけさ。私にはそうやって切り捨てることができる。例え他者がどれだけ苦しもうと、死のうと。私は私と私の主人さえ最後に笑っていればそれでいい」
淡々と言い放つエリオス。そうだ、彼はそう言うモノだ。シャールは今更ながらに下らないことを問うたと後悔した。
そんな彼女に、エリオスはその笑みを消してシャールを見つめる。
「でもね、君はそうはいかないだろう?」
「——ぇ?」
「君は私のように割り切れない。『戦争だ』なんて割り切っている風を装ってはいるが、その実、私のこんな口先だけの言葉に踊らされる。結局君は割り切れてなんかいないのさ。そして、ふと戦場で気がつく。この人にも守りたいモノがあったんじゃないか。そして悩む。殺していいのか、勝っていいのか。その悩み、迷いは戦場においては命取りになるんじゃないかな」
エリオスの言葉には理があった。
確かに、自分がそうなる姿は、シャール自身も容易に想像できた。故に、シャールはエリオスになんの言葉も返せないのだ。




