Ep.6-58
モルゴースの求めに応じて、サルマンガルドは話始める。海岸での不死者の軍勢による迎撃と、それが撃ち破られた経緯。既にモルゴースは遠見の魔術で戦況の概観は見ていたであろうことから、その辺りは早々に切り上げて、サルマンガルドの話はすぐに彼の所感へと移行する。
「——まず、軍勢としての評価については、そこまで高くはないだろう……『神』だの『明日』だのと大義を掲げてはいるが、所詮は寄せ集めの烏合の衆。総隊としての動きは我が軍に分がある」
サルマンガルドは、繰り返し先の交戦の様子を映し出す大鏡を、モルゴースたちと見ながらそう口にした。
この所感は、彼の軍勢が矢を射掛けたときの討伐軍の対応の時点で見て取れたものだった。
組織としての統率で以って防御体制を整えるということすら出来ずに慌てていた連中だ。いくら慣れない軍艦の上とはいえ、その不甲斐なさは弁護のしようの無いものだ。
それに加えて、大鏡で確認したアルカラゴスとの戦いにおいても、彼らの動きは悪かった。海に投げ出された者たちの救助活動においても、そこかしこで連携の脆さが映し出され、その脆さが結果として死者数の数に繋がっている。
これらの所見を以って、サルマンガルドは彼らの軍勢としての練度を判断した。
「だが、個々の戦略はやはりというか目を瞠るものがあるのは確か……」
「ああ、其方の軍勢を一撃で葬ったあの小娘か」
モルゴースは鏡を覗きながら、その中で立ち回りを演じるユーラリアとレイチェルを見つめる。
サルマンガルドは髑髏面の眼孔から覗く目を細める。
「——そう……あれがアヴェスト聖教会の最高巫司、聖教会の軍の最高指揮官だ」
「最高指揮官? 軍の要が自ら出てきたと言うのか?」
サウリナは思わず声を大きくして、すぐにそれを恥じたように俯く。そんな彼女に苦笑を漏らしながら、モルゴースはふむと鼻を鳴らす。
「なるほどのう。『神の代理人』たる巫女であるのならば、あの神聖魔術の威力も頷ける。其方の軍勢に当たらせるには危険な存在よな」
「加えて僕の軍勢の中心に二人きりで乗り込んできたことも懸念点だ……不測の事態を恐れていない、必ず勝てると思っている人間の振る舞いだ。そんなことをするのは余程の馬鹿か……」
「或いは自らの実力をよく知っていて、その上で確信を持っている者か」
自らの言葉を引き継いだモルゴースに、サルマンガルドは無言で頷いて応える。それから更に話と視線を転じる。
「聖剣使いたちは皆脅威だが、他にも脅威たる存在がある。例えば僕の兵士たちの矢を止めたあの魔女。あの魔術は、古典魔術の中でも秘匿された代物、そうそう人間に扱えるものではない——」
「ほう、其方が認める逸材か。それはそれは……」
どこか楽しげなモルゴースにサルマンガルドは不服そうに鼻を鳴らす。
「そういうわけではない……それと、もう一人懸念すべきは」
「そう。アルカラゴスを撃退したあの少年な。彼は——アレは、なんだ?」




