Ep.6-55
軍議が終わると、参加者たちは各々自らが率いる部隊に戻ったり、周囲の警戒にあたったり、あるいは単に夜風に当たりに行ったりと皆テントを出て行った。
そんな中でテントに残った人影が三つ。
一つはユーラリア。最奥の席に座りながら、古い暗黒大陸の地図を眺めている。
彼女の隣にはレイチェルが座り、同じように地図を眺めつつ先の軍議の結果を資料にまとめている。
そしてもう一人、テントの片隅のスツールに腰をかけて、うんと伸びをするのはエリオスだった。
伸びをしながら、悩ましさすら感じさせる声を漏らすエリオスに、レイチェルが片眉をあげる。
「——貴殿は、なぜここに?」
「おや、いちゃダメなのかい? 意外と狭量だね。それとも主人と秘密の話でもしたかった?」
「別にそう言うわけではないですけれど……」
レイチェルは眉間に皺を寄せながら、エリオスの言葉を丁重に否定する。そんな彼女の真面目な対応に、エリオスはにんまりと笑って頷いた。
そんな二人のやりとりを見て、ユーラリアはくすりと笑いをこぼすと、口を開いた。
「貴方は私に何か聞きたいことがあるのではないのですか? エリオス・カルヴェリウス」
「聞きたいこと——というほど大仰なモノではないけどね。単に答え合わせをしたかっただけさ。さっきの君の突飛な行動についてね」
エリオスはそう言うとゆらりと立ち上がり、悠然とユーラリアに歩み寄る。そして差し出した右手の指でユーラリアの頬に触れる。
「貴様——ッ!」
エリオスの振る舞いにレイチェルは反射的に聖剣に手を伸ばしながら、彼を睨みつける。彼の指がさらにもう少しだけでも動いたら、すぐさま聖剣を抜いて斬りつけそうな雰囲気が漂う。
しかし、そんな彼女をユーラリアは片手で制すと、真っ直ぐエリオスを見つめ直す。
そんな彼女の線の細い顎をエリオスはくいと押し上げると、じっとその瞳を覗き込んだ。
そして僅かに苦笑を漏らす。
「ふふ、君の番犬は随分と君に執心しているようだね」
「ええ、自慢の騎士様ですよ。それで、答え合わせとは?」
挑発じみた物言いに一切の反応を示さないユーラリア、彼女の問いかけにエリオスは苦笑しながら肩をわざとらしく竦める。
「嗚呼、シンプルな話さ。君がとった突飛な行動——サルマンガルドの軍勢の中にレイチェル卿と二人っきりで飛び込んだアレ。あの時うっかりと驚かされてしまったのが悔しくてね。それで、どういう意図かを分析してみたんだけど……アレは、単なる上陸作戦に託けた、兵士たちの士気を上げるパフォーマンス……っていうのが表向きの理由だよね?」
エリオスの不躾な物言いにレイチェルは顔を顰めるが、当のユーラリアはそれを何とも思っていないように、くすくすと口元に手を当てて微笑む。
「表向き……ふふ、ええその通りですよ。ですが、そのような物言いをされると言うことは、当然『裏の理由』もあるとお考えなのですよね?」
「まあね。いくつか考えつくけれど、性格の悪い私としては……君の存在、その英雄的在り方を多くの兵士たちや各国の将官に鮮烈に印象付け、後々の統制局長との争いの有利な駒とするため——っていうのがイチオシかな?」
エリオスの言葉、あまりの穿った見方と物言いであったが、ユーラリアはそれを否定するでもなく嫣然と微笑んだ。
本日夜に数年ぶりに歯医者に行ってきますので、その結果如何では、夜の方はちょっと更新できないかもです。
その時は御容赦いただきますようお願いいたします




