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Ep.6-52

無言で四方八方から自分たちに視線を注ぐ不死者たちに、ユーラリアは肩を竦める。


「あらあら、今にも斬りかかられてしまいそうですねぇ。怖い怖い」


「自分から飛び込んでおいてそれはあんまりでは?」


「レイチェルは厳しいですね。さて、それはさておき少しの間お任せしてもよろしいですか?」


そう言ってユーラリアは、聖剣を腰の鞘に戻すとちらとレイチェルにウインクを極める。そんな彼女にレイチェルは苦笑を漏らした。


「あくまで聖剣の力は出し惜しむのですね。まあいいでしょう——御命令、承りました」


そう言うとレイチェルは、ユーラリアと背を預け合うような形でサルマンガルドの軍勢と対峙すると、おもむろにその聖剣を地面に突き立てると僅かに微笑む。


「『晶析』の理を司る聖剣に願い奉る。大地に眠れる牙を私のために振るって欲しい、その顎あぎとで我が道を喰らい開いて欲しい——大権能、収束励起」


そうレイチェルが口にした瞬間、聖剣が突き立てられた点を中心に、僅かに地面が揺らめく。それに反射するように、周囲の不死者たちが一斉に飛びかかる。まるでこれから起きるナニカを恐れているかのように。だが、もう遅かった。


「『晶析せよ、星の牙(クリスターロ・ザンナ)』」


レイチェルがそう謳い上げた瞬間、彼女の周囲の地面が煌めいた――と思った瞬間、彼女とユーラリアの周囲から円形に金色に輝く鉱物の鋭い石柱が地面から突き出す。それは、まるで石を投げた水面に立つ波のように幾重にも広がり、周囲を取り囲んでいた不死者たちを貫き、吹き飛ばし、ずたずたに引き裂いていく。それは美しくも、圧倒的な神聖なる暴力。レイチェルを中心として、半径十数メートルの敵が瞬く間に動かざる肉片へと変じていく。

しかし、不死者たちはまだまだ残っていて、彼らの進軍は止まらない。目の前で同胞が無惨にも叩き潰されていく中にありながら、彼らは一切の動揺も、感情の動きすらなくただただ死骸に群がる蟻よりも機械的に。自分たちの四肢が傷つき、千切れ落ちるのもかまわずに、鉱物の槍衾を乗り越えてレイチェルとユーラリアに迫って来る。

その様に、レイチェルはわずかに目を細め、眉を顰める。


「――なんて姿だ……これが死霊術というものなのですか……」


人や魔物の姿形の彼らだが、その本質(ナカミ)はもはや失われている。ただ目の前にあるのはそう言う現象であり、尊厳も意思も本能も、何もない代物だ。そんなただ動くだけのモノが這い寄って来るこの光景にレイチェルは恐怖では無く、嫌悪感を覚えた。

だが、そんな感傷に浸っている場合ではない。同胞の骸を踏み越え、あるいはその上を這いまわるようにしながらにじり寄って来る動く死体は、いくら聖剣の権能を展開しても尽きることは無い。そんな状況に流石に危機感を感じたレイチェルは振り返ることなくユーラリアに向けて叫ぶ。


「そろそろ――よろしいでしょうか! 猊下!」


「あら、もう限界ですか? 存外こらえ性が無いですねえ――なんて、冗談です。もういいですよ、レイチェル」


ユーラリアの答えに、レイチェルはぱっと振り返る。その瞬間、彼女が見たのは青白い清浄なる光の中に立つ聖女の姿。レイチェルはその宗教画か神話の一幕のごとき光景に、危機的状況にあることも忘れて思わず感嘆のため息を吐いた。

そんな彼女の視線を受けながら、ユーラリアは慈悲の眼差しを不死者の兵たちに向けて、口ずさむ。


「――『解き放とう(フランジ・ピュート)、朽ちたる檻から(リドム・カーヴェア)』」

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