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Ep.6-51

「さて、と。それじゃあ上陸と行きましょうか。私とレイチェルで先行して少し地ならししておきますから、ザロアスタ卿はそのまま船を漕いできて下さいな」


そう言うと、ユーラリアは権杖を船に置いて、腰に佩びた聖剣を抜き放つ。それから、その聖剣の切先を真っ直ぐと海岸線に向ける。


「レイチェル、こちらへ」


「は? ——ぇあ!?」


レイチェルはいまいちユーラリアが何をしようとしているのか分からないながらに、彼女の指示にとりあえず従い、彼女に近づく。すると、ユーラリアはぐいとレイチェルを抱き寄せて、その腰に手を回した。


「げ、猊下——何を!?」


動揺してもがくレイチェルを、その華奢な腕からは想像もつかないような力で押さえ掴んだユーラリアは、ちらとザロアスタを振り返る。


「それでは、行ってまいりますね。杖をよろしく」


「御意に。我輩もすぐに追いつきますぞォ! ハハハハハハ!」


「笑ってる場合ではないのですがッ!? ひゃあ!?」


高笑いするザロアスタに抗議を投げるレイチェルだったが、ユーラリアはそんな彼女をより強く抱き寄せて黙らせる。


「レイチェル、少しの間お口を閉じていて下さい。舌を噛みますよ? ——聖剣よ、橋をかけよ」


「ぇ?」


ユーラリアは自身の聖剣にそう語りかける。その瞬間、聖剣の形が変わる。柄から先の刀身がぐにゃりと曲がったかと思うと、じゃらじゃらと音を立てて船の中に落ちる。

ユーラリアの聖剣の刃が、鎖となっていた。白く輝く重厚な鎖に。ユーラリアはそれを満足げに見つめると、剣を振り抜く要領で、思い切り鎖を海岸線に向けて振り投げる。

投げられた聖剣の鎖は明らかにその本来の長さや質量を逸脱した長さになっても、飛び続け暗黒大陸海岸の崖にある尖った岩に巻きついた。

それを確認すると、ユーラリアは満足げに微笑んで、抱きしめたレイチェルを見遣る。


「さ、行きますよレイチェル。歯は食いしばっておきなさい」


「ちょ、え? 猊下……まさか」


「聖剣よ、私を運べ」


ユーラリアがそう口にした瞬間、鎖は一気に収縮し、それに伴ってユーラリアとレイチェルの身体が空中に浮く。

収縮する鎖に引かれるままに空中を滑るように飛ぶユーラリアとレイチェル。


「あはは! 初めてやりましたけど意外と上手くいくものですねコレ!」


子供っぽく楽しげに笑うユーラリアに対して、レイチェルはそんな余裕すらなく歯を食いしばっている。尤も、ユーラリアの細腕に完全に生殺与奪を握られてしまっている現状ではそれもやむなしだろうが。

そして数瞬の後、二人の身体が海を越えて陸の上へとたどり着くと、ふいに鎖が姿を変えて、再び剣の形へと戻る。それと同時に、ユーラリアとレイチェルはひらりと不死者の軍勢の中心へと降り立つ。


「……猊下、こういうのは事前に伝えて下さい……驚きで心臓が破けるかと思いました……」


「あらあら、ごめんなさいね。でも、貴女の怖がってる顔もなかなかに魅力的だったわよ?」


「——ご冗談を……それよりも」


ゆるゆるとかぶりを振りながら、レイチェルは周囲を見回す。ぐるりと自分たちを取り囲む不死者の軍団にレイチェルはため息を漏らす。


「あちらは戦闘準備万端のようですね」


「みたいね。それで貴女は? まだ心臓が破けそうなら、休んでいてもいいのですよ?」


ユーラリアの言葉に、レイチェルは苦笑を漏らしながら聖剣を抜く。そして、不敵に笑ってみせる。


「それこそご冗談。私は貴女の騎士なのですから」

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