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Ep.6-49

「――ふむ。なるほど、流石は魔王軍の幹部というわけですか。そう簡単に上陸させる気はなさそうですね。となると……」


不死者の軍勢の中へと消えていったサルマンガルドの姿を見送りながら、ユーラリアは少し考え込む。例えば今このまま無理やりに船団を接岸させて上陸しようとすれば、あの無数の不死者の軍勢に取り囲まれて、甚大な被害を被ることになるだろう。なにより、そんな戦術を採用しては従軍する者たちの士気にかかわる。ただでさえ、アルカラゴスとサルマンガルドの軍勢という強大な脅威に連続で晒されて、兵士たちの士気は下がっているのに――


「士気……ああ、そうですね。ふふ」


「猊下? いかがなさいましたか?」


近くの騎士が一人でくすくすと笑うユーラリアを心配したかのように問いかける。そんな彼に、ユーラリアは嫣然と微笑む。そんな彼女の表情に兵士は見とれたようにわずかに頬を赤らめる。


「――ちょうどよかったです。貴方に一つお願いがあるのです」


「は……はい! 何なりとお申し付けくださいませ」


ビシっと軍靴のかかとを打ち鳴らすように揃えて兵士は姿勢を整え敬礼する。そんな彼に嬉しそうな、それでいてどこか悪戯っぽい笑みを浮かべながら、そっと彼に耳打ちする。


「船を……用意していただけるかしら? それと伝令を一つ。内密でね」



§   §   §



「さて、ここからどうするつもりなのかな。指揮官サマは」


不死者の軍勢から放たれた矢衾の処理を終えたエリオスは「疲れた」と言って、一人甲板でくつろぎ始めた。近くにいた兵士たちに、船室からは一人がけの革張りソファとサイドテーブルを運ばせたり、紅茶を淹れさせたりと我儘放題。それでもこの船の兵士たちが彼に従うのは、アルカラゴスとの戦いや彼の凄まじい魔術を見せつけられたから。

その根底にあるものが畏敬なのか恐怖なのか分からないけれど、彼らはエリオスを自分たちが刃向かってはいけない存在なのだと理解したようだった。

エリオスの態度は目に余るけれど、それでも兵士たちが彼に反抗しないことを選んでくれたのはシャールとしてもありがたかった。

下手をすれば、血を見るような事態になっていたかもしれないから。


「……にしてもエリオス、他人事感が過ぎませんか?」


その寛ぎっぷりと口ぶりを窘めるように、シャールはちくりと言葉で刺してみる。しかし、そんな彼女の小言などエリオスは意に介することなくゆるゆるとかぶりを振る。


「実際他人事だからね。私は作戦立案のために呼ばれたわけじゃあない、ただこの身に帯びた力を振るうことだけを期待されて呼ばれたわけだし、私もそれ以上のことを積極的にするつもりはない。そして私はその期待に応えて働いた。文句はないでしょ?」


「まあ……そう言われればそうですけれど……」


不服はあるけれど、エリオスの言葉も間違いではないから、シャールは不承不承ながらに引き下がる。そんな彼女を満足げに見ながら、エリオスは視線を暗黒大陸の方へと向ける。


「動かないね……向こうも」


さきほどの強弓の一斉掃射、そしてエリシアの権能による攻撃から、サルマンガルドの軍勢は一向に動く気配を見せない。

こちらの出方を見ているのか。あるいは、援軍でも待っているのかもしれない。

こう着状態があまりにも長く続けば、それこそ魔王からの大援軍がこの海岸線に殺到することもあり得る。あるいは、この状態でアルカラゴスが再来した場合、かなり不利な戦いを強いられることになる。そうなる前に、なるべく早く上陸をすべきなのだろうが……


「不死者の軍だからか、向こうの方が色々と持久戦は有利……厄介なことだが——ん?」


ギィギィという軋むような音が聞こえた。

エリオスは不意に耳に飛び込んで来たその音に、ぴくりと身体を震わせる。

エリオスは急に立ち上がり、音のする方へ、艦の船縁へと駆けていく。シャールも反射的にその後を追う。

船縁に手をつき、海面を見下ろしたエリオスとシャールの目に飛び込んで来たもの。


「な——?」


エリオスが思わず驚いたような声をあげる。

彼の視線の先、海に浮かんでいたのは一隻の小舟。そこに乗った一人の少女——ユーラリアは、エリオスに気がつくとひらひらと手を振った。

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