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Ep.6-48

エリシアの操る、聖剣の炎で形作られた鳳は真っ直ぐにサルマンガルドの不死者の軍勢の方へと突っ込んでいく。しかし——


「『断絶される時間(クーペ・ル・トォン)』」


炎の鳥が空中で動きを停止する。凍りついたように、時間の流れから取り残されたように。

それは先程、リリスが使った魔術と全く同じ効果——否、彼女が使った魔術そのものだった。

そして次の瞬間、炎の鳥は弾け飛び、散り散りの火の粉となって海へと落ちていく。


「な——!」


その一連の光景に、魔王討伐軍の多くの者が驚愕する。特に、当てつけの如く同じ魔術を展開されたリリスは奥歯を噛み締めて、その様を睨みつける。

しかし、そのひどく険しい表情は当てつけされたことに対する怒り以上の何かが織り込まれているように思えた。

リリスは爪を噛みながら、声を漏らす。


「あれは……あれが……!」


弾け飛んだ炎の鳥が火の粉となって海に降り注いでいる中、その向こうに居並ぶ不死者の軍勢とは異質な存在の影が見えた。

軍人、兵士然とした不死者たちの中にあって、一人魔術師のようなローブを纏った人影。距離のせいでその姿は明瞭には見えないけれど、その異質さと溢れ出る魔力量は、この距離からでも感じられる。


「あれは……もしかして」


シャールがふとそう口にすると、それとほとんど同時に甲板へと戻ってきたエリオスがその言葉を引き継ぐように応える。


「ああ。おそらくアレが魔王軍の最高幹部三卿が一人、冥道卿サルマンガルド。死霊術だけでなく、魔術全般も達者と聞いていたけど、まさかここまでとはね」


エリオスのどこか驚嘆したような口ぶりに、シャールはやはり今目の前で繰り広げられた光景は驚くべきものであるのだと再確認する。

エリオスは口元に手を当てながら、続ける。


「さっきも言ったけど、あの魔術にはいくつかの制限があってそのうちの一つに『魔力を帯びた物体の運動への干渉は術者の魔力次第』っていうのがある——あの火の鳥は当然だけれど、聖剣から生じた炎で形作られた神の権能の片鱗たる魔力を帯びた代物だ。当然、この制限に引っかかるもので、これを停止させるにはそれなりの魔力量が必要となる」


エリオスはそう言ってから、ちらとエリシアの方を見遣る。彼女の聖剣は未だ炎を帯びていた。それを見てエリオスは「ふんふん」と鼻を鳴らしてから続ける。


「今回エリシアはアレを作るのに権能励起の詠唱をしなかったから、帯びてる魔力量としては大したことはないだろうけれど、それでも聖剣の権能の一端をああして、ほんの数瞬とはいえ止めるというのはやはり別格の力量だよ」


そんなエリオスの解説に、シャールはようやくリリスがあそこまで険しい表情をしているのかを理解した。

先ほどの光景から、サルマンガルドの魔術師としての凄まじさを理解しているからこそのあの表情。

魔術師としての純粋な驚嘆、自分はあれだけのことが出来るのだろうかという不安、実力差を見せつけるかのようなサルマンガルドの振る舞いへの怒りと嫉妬。そんなぐちゃぐちゃの感情が、彼女の表情をあそこまで険しくしているのだろう。

シャールたちがそうやって、目の前で起きた光景に動揺する中、サルマンガルドと思しきローブ姿の人影は再び不死者の軍勢の中へと消えていった。

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