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Ep.6-46

夜空に黒い霞がかかったように、サルマンガルドの軍勢が放った矢が空を覆い、シャール達魔王討伐軍の艦隊へと振り注ぐ。


「——ッ!」


あの矢の一つ一つが、引き絞られた強弓から繰り出された一射。あれだけの強弓からの一撃なら、鉄の鎧程度なら確実に貫通し、腕に当たれば肩から先を、足に当たれば股から先をそっくりそのまま引き裂くように持っていかれることになるだろう。

まさしく必殺の一射——それが今、雨あられの如く振り注ぐ。死が降り注いでくるとでも云うべき光景。

その様に、シャールや兵士たちは言葉を失い立ち尽くす。

それでも、聖剣を握ってその場に立ち続けるシャールの姿に目を細めながら、エリオスは彼女に告げる。


「安心しなよ。あんな魔術でもなんでもないモノ、どうにでもなる」


「それは……私たちの艦はそうかもしれないですけど……他は……!」


「ふふ。君ねぇ、何のために聖剣使い達が乗る艦がこんな馬鹿みたいに横並びで最前線に出てきてると思ってるの?」


そう言ってエリオスはちらと横目に他の艦を見る。

それぞれの艦では、エリシアとリリス、そしてユーラリアが一歩前に進み出て飛んでくる矢を見上げている。

それから、リリスは握った杖の先を飛来する無数の矢の方へと向ける。それと同時に彼女の足元に淡い光を放つ魔法陣が展開される。


「『断絶される時間(クーペ・ル・トォン)』」


呪文を口にしながらリリスは杖を大きく振るう。その瞬間、空間が軋むような音が響いた。


「――ぇ?」


その直後、目の前に広がった光景にシャールは思わず間の抜けた声を漏らした。

彼女の視界に広がっていたのは、ついほんの一瞬前には風を切る速度で艦隊に迫っていた矢たちが、物理法則を無視して空中に停止しているという、あり得ざる光景だった。

似たような光景は、つい数刻前アルカラゴスとの対決の際にも見た。あの時は、アメルタートの権能の魔力を一時的に宿したこちらの矢が、かの龍の尾に打ち払われてなお、その残存魔力で空中に滞留していたというものだった。

だが、今目の前に広がる光景は明らかにそれとは異質だ。アメルタートの権能によるそれを矢が「浮遊していた」と表現するのならば、今目の前に広がっている光景は矢が「停止していた」。まるで、時間の流れからあの矢たちだけが取り残されたかのように、あるいは一瞬の光景が、まるで絵のように切り取られたかのような光景にシャールも兵士たちも思わず息を呑んだ。


「これは……一体」


「へえ。彼女、本当にあのときから結構成長しているみたいだね」


エリオスは腕を組みながら、感心したように軽く口笛を吹いて飛ばす。

それから彼は混乱するシャールに解説するように話し始める。


「あの魔術は私も知っている。有り体に言えば、『時を停止させる』魔術——より正確に言うならば『ほんの少しの間物体の運動を完全に停止させる』かな」


「物体の……運動?」


彼の言葉がよく理解出来なかったシャールは、思わずエリオスの言葉を復唱する。そんな彼女に苦笑を漏らしながら、エリオスは続ける。


「単純に言えば、モノの動きを止めるということさ。これだけ聞けば効果は破格だけどね。かなり制限のある魔術だ。例えば生体——既に一度は死んでいるような不死者や動く死体どもがその適用対象かは分からないけど——には使えない。あとは、魔力を帯びた物体や現象への干渉は術者の魔力次第、とかね」


なるほど確かに生き物やその体内の臓器の時間を無制限に止められるとしたら、それは規格外とも言えるような必殺の魔術になってしまう。

そこまで都合は良くないということか。


「まあ他にも諸々制限はあるのだけれど、あの迫り来る矢はいずれの制限にも引っかからない——それを彼女一瞬で判断したわけだ。流石だよね……しかも、これだけの広範囲に魔術を展開するとか……流石に『賢者』の名は伊達じゃないってことかな」


そう言いながら、エリオスはどこか感心したような表情を浮かべた。

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