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Ep.6-43

「シャール、お疲れのところ悪いけれど起きてもらえるかな?」


そんなエリオスの声と共にシャールは目を覚ました。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。あれだけ目を閉じることを恐れていたというのに、ずいぶんとあっさりと穏やかに眠りにつくことが出来たものだと驚きを禁じ得ない。想像以上に疲れていたというコトなのだろうか。


「ふふ、存外によく眠れたようでなによりだ。顔色もだいぶいい」


エリオスはシャールの髪を軽く払って、その顔を覗き込む。確かに全身が暖かくなっているような感覚があるし、魔力もだいぶ戻ってきているのが感じられた。シャールは軽く伸びをしてからゆっくりと立ち上がり、聖剣に手を伸ばす。


「——やっぱり何か仕込みました?」


「いや、開口一番それはあんまりすぎるでしょ? 何も仕込んでないよ」


「……言ってみただけです」


あれだけエリオスの前で眠るのを渋っていたのに、ミルクを飲んだらあっという間に寝落ちてしまったという事実が、どうにもきまり悪くてシャールは視線を逸らしながらそう言った。

そんな彼女に苦笑を漏らしながら、エリオスは告げる。


「最高巫司サマから伝言だ。救助活動、ご苦労様でしたってさ。おかげでたくさんの人が助けられた、感謝のしようもありません。暗黒大陸上陸までゆっくり休んでください——だそうで」


「……そう、ですか」


最高巫司から感謝の言葉を贈られるなどというのは、王侯貴族であろうとも一生に一度もありはしない大変な栄誉であるのだけれど、シャールはそれをとりわけて喜ぶ気分にはなれなかった。

それでも、彼女の言葉にいくぶんか心が楽になる。

そんな彼女の表情の僅かな変化を見つめながら、エリオスは続ける。


「とまあそれが伝言ひとつ目。二、三刻前に伝令されてきたものだ。そしてもう一つ、これはついさっき伝令されたものなんだけど——お休み中大変申し訳ないのだけれど、今すぐ聖剣を持って甲板に出て下さい、とのことだ」


その言葉を聞いた瞬間、シャールはさっと血の気が引くような感覚に陥る。意識が一気に覚醒する。

がばっと布団を剥いでベッドから転がるように起き上がり、外套を引っ掴んで髪を手櫛で整えながらシャールはエリオスに叫ぶ。


「そういうのはもっと早く言ってください!」


「あは、ごめんごめん」


からからと笑うエリオスに、シャールは返す言葉を考える暇もなく、聖剣を掴むと船室から飛び出す。

そして、思わず息を呑んだ。


「あれが……暗黒大陸」


シャールの目の前、数キロほど先に帯のように黒々と広がる陸地。アルカラゴスの襲撃の際にも見えてはいたが、今はよりはっきりとその形が見える。

そんな陸地の上で、シャールは何かが動くのを視認した。


「——あれ、は?」


「おや気が付いたかい? そうしたら、ついでに周りにも目を向けてみるといい」


そんなエリオスの言葉に釣られるようにシャールは左右を見渡して、艦隊の隊列が先ほどとは変わっているのに気がついた。隊列の先頭を走っていたはずのシャール達の艦の横に並ぶように、レイチェルやザロアスタ、エリシアやリリス、そしてユーラリアたちが乗った鑑が走っている。彼らは鑑の甲板、船首の辺りに立って、皆一様に真っ直ぐに暗黒大陸の方を見つめている。

そんな彼らの姿に嫌な予感を感じるシャールに、エリオスはくすくすと笑いながら、望遠鏡を手渡す。

シャールは彼に促されるまま、それを使って暗黒大陸の沿岸へと目を投じる。


「——ッ! うそ……!」


シャールが覗き込んだ海岸線には、陰鬱な雰囲気を纏った軍勢が、完全武装でぞろりと居並んでいた。

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