Ep.6-22
コメントにて魔王軍幹部の名前の由来を看破された方、御明察です笑
ザロアスタの言葉は、シャールやリリス、そして列席する各国の将帥達には理解のできないものだった。しかし、レイチェルをはじめとする聖教会の面々は理解しているようで少しだけ深刻そうな顔を浮かべた。
「――分かりません。ただ、可能性は十分にあるかと」
「失礼、『真正の悪魔』とは?」
ザロアスタの問いに答えたレイチェルに、しびれを切らしたように将帥の一人が声を上げる。そんな彼を統制局長はちらと見ると、小さくため息を吐く。
「ザロアスタ卿、説明してやりなさい」
「御意。悪魔という存在については御歴々もご存知かと思う。魔物の一種であり、人をたぶらかし誘惑し、堕落へと導く存在。だが、それらは神学的には真正の悪魔とは見なされない。それらは単なる、そういう『魔物』に過ぎないからだ」
ザロアスタは、滔々と語る。その口ぶりは普段の猪武者めいたよく言えば豪放磊落さ、悪く言えば粗暴さが鳴りを潜めて、学者然とした落ち着きのあるものに変わっている。
「では神学における悪魔とは何か。これは、堕落し、神々に牙を剥いた天使――即ち堕天使に他ならない。堕天使は、かつての名を失い悪魔となった。されど、その力は手づから神が作り出したがゆえに強力無比。なにより神話時代から存在し続ける、聖剣にも並ぶ神秘の持ち主ということになる」
「つまり……どういうことなのです?」
問いを投げた将帥は彼らが表情を曇らせた意味を測りかねていた。そんなどこか情けない問いかけに、統制局長が深めのため息を吐いた。
「――つまりだね。もしそのナズグマールが真正の悪魔であるとするならば、我らは元天使と戦うことになる。そして、それ以上に恐ろしいのは彼の者が従っている魔王とやらは、神すらも裏切った堕天使を従えるに足るナニカを持っているということだ。それが純粋な力か、或いはカリスマかは分からないが、どちらにしろ厄介この上ない」
「その通りです、統制局長閣下。先ほど申し上げた通り、魔王軍の兵力はおおよそ多く見積もっても七万程度。対してわが軍は当初の見積もりを越えて、約十二万ほどの軍勢が揃っている。数だけでいえば、十分に魔王軍を抑え込めるでしょうけれど、あちらの首領である魔王の底知れなさが、この戦いの行く末を不透明にしている——そして、もう一つその底知れなさを深める存在がいます」
そう言ってレイチェルは資料の頁を一枚めくる。そこにはこれまでの頁とは違い一枚の挿絵が描かれていた。古い版画を元にしているよう。そこに描かれたのは、蛇のように長い体と蝙蝠のような翼、そして捩れた角を持つ——
「古き伝承の黒龍アルカラゴス。彼の邪龍が魔王に与し、暗黒大陸の空を支配しているとの報告が入っています——魔王軍の者たちは、三卿にアルカラゴスを加えて四凶と称しているとか」
レイチェルのその言葉に、諸将が動揺を示す。あの統制局長ですら、その表情に緊張が走っていた。
統制局長は口元に手を当てながら、声を震わせる。
「——あの『力』のアルカラゴスが……魔王に従っているというのか……?」
魔王軍幹部の名前は、アルカラゴス含めてトールキンの指輪物語に登場するキャラクターたちの捩りだったりします。
元ネタとの対照は以下の通り(若干指輪物語のネタバレ?)
サルマンガルド……白のサルマンと彼の居城のアイゼンガルド
サウリナ……冥王サウロン
ナズグマール……指輪の幽鬼ナズグルとその首領アングマールの魔王
アルカラゴス……黒龍アンカラゴン
割とキャラクター名はそのエピソードごとにテーマを決めてそこから捩ったりすることが多く、今回は伝説的ファンタジーの指輪物語から拝借しました。まだ名前を出していませんが魔王も指輪物語に因んだ名前となっております。指輪物語や映画ロード・オブ・ザ・リングを履修済みの方は予想してみて頂くのも面白いかもです。尤も、副官の名前の元ネタがサウロンですから、その主人の名前は結構予想がつくかも知れませんが……
ちなみにコメント欄に速攻で元ネタを看破された方がいらしたので、ちょっとびっくりしたのと同時に、指輪物語の認知度の高さに驚かされました。




