Ep.6-21
「魔王軍の最高戦力、無論首魁たる魔王が最も強力な存在であることには疑いは無いのですが、その配下の幹部として強力無比の力を振るう者たちの存在が我らが放った斥候から報告されています」
そう言いながら、レイチェルが手元の資料をぱらぱらとめくると、各国の兵団長たちもそれに倣う。シャールもまた、手元の資料をめくり、魔王軍の戦力に関するページに目を落とした。
「――魔王軍の幹部として力を持つのは主に三卿と呼ばれる者たち。それぞれに強大な能力を持った魔人です」
彼女はそう言って、魔王軍幹部たる三卿について語り出した。
「三卿の中でも、我々が最も優先して討伐すべき者が冥道卿サルマンガルド——件の死霊術師です。死霊魔術をはじめとした多くの魔術を修めた魔人で、まるで自らの指先の如く不死者の大軍勢を操ることができるとの報告を受けています」
「なるほど。逆に言えば、そのサルマンガルドを倒して仕舞えば魔王軍の兵力を一気に減ずることができると」
統制局長は顎を撫でながら、そう口にした。レイチェルはその言葉を首肯すると、さらに付け加える。
「しかし、これは同時にサルマンガルドを倒さなくては我々は無限に不死者の軍勢と戦い続けねばならなくなります——故に、暗殺なども視野に入れて、一気に討ち取らなくてはならない。そして、それまでは諸軍に不死者たちの相手をお願いすることになるだろう」
その言葉に列席した重役たちは眉間に皺を寄せながらも、致し方なしと頷く。そんな彼らの反応を確認してから、レイチェルは続けて資料に目を落とす。
「次に、紫電卿サウリナ。魔剣士とも呼ばれる絶世の剣技の使い手たる魔人で、魔王の副官でもあります。サウリナは魔王から軍務に関する全権を委任されており、恐らく彼女を倒せば魔王軍の指揮系統は混乱を来たすことになる。そうすれば、一気に戦況を有利にもっていくことができるかと」
「とはいえ、将帥であるのならば前線に出てその身を危険に晒すことは無いのでは?」
列席していた将軍の一人がレイチェルにそう問いかける。彼女はその言葉に頷いて肯定する。
「然り。故に、サルマンガルドとは違い優先的に討伐する必要はない、否そもそも不可能であると考えられます。斥候による暗殺や聖剣使いたちによる特攻なども考えられますが、サウリナが軍の指揮に注力している間はむしろ放置して置くのが肝要かと。しかし、いずれ交戦する際には、聖剣使いが対応することとします」
そうレイチェルが答えると、質問を投げた将軍はなるほどと頷いて再び資料に目を落とした。その納得した様子を見届けたレイチェルは次の説明へと移る。
「そして三卿最後の一人が、天魔卿ナズグマール。この者については、その存在と噂のみしか確認できておらず詳細は不明です」
「噂とは?」
「曰く、かの者は悪魔であると。そして、己の軍を持たず、言葉を交わしたことがあるのはサルマンガルドとサウリナ、そして魔王のみであると」
その言葉に、統制局長とザロアスタが眉間に皺を寄せる。ザロアスタは顎髭を撫でながら、目を細め溢すように言った。
「悪魔——それは、真正の悪魔なのだろうか」




