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Ep.6-18

昨日はひどく立て込んでおりました、投稿がひどく遅れまして申し訳ありません。

本日は三話投稿する形で調整させていただきます。

「――幻滅、しました?」


ユーラリアの言葉に、シャールは一瞬口を噤む。どう答えるべきなのか、その答えによって彼女はどんな反応を示すのだろうか——そこまで考えて、シャールはふと自分の愚かしさに気がつく。

例えば自分が「幻滅した」と答えても、きっと彼女の歩みは止まらないしその理想への視界(ヴィジョン)が曇ることは無いのだろう。彼女にはもう、その覚悟が出来ているから。

ならば、自分が問いかけるべきはユーラリアではなく、自分自身だ。自分自身の言葉を、偽ることも気を遣うこともなく告げるべきなのだ。


「正直、びっくりしました——その、あまりにも想像とは違っていて」


辿々しいシャールの言葉に、ユーラリアとレイチェルはほんの一瞬、少しだけ悲しそうな色を浮かべた。きっと無意識だったのだろう、すぐにその色は消え失せていた。

そんな二人の表情を見ながら、シャールは続ける。


「でも、それは幻滅なんていう後ろ向きな驚きじゃなくて、最高巫司様の人間らしいところを見れたこと、見せていただけたことに――特別感というか、喜びを感じている。整理はつかないけれど、そんな風に感じているんです」


「そうですわね。(エリオス)では無いですけれど、猊下のそういう側面は私たちにとっては好ましいものですわ。近寄りがたさが薄れる、というのでしょうか」


リリスもシャールの言葉に同意するように頷きながらそう言った。その言葉に続けるように、シャールは真っ直ぐユーラリアを見つめる。


「貴女はきっと自分の在り方に迷いは無いんだと思います。でも、それはそれとしてそういう『本性』や『本音』を誰かに開示するのは勇気が要ることです。拒絶されたら、嫌われたら、幻滅されたら――たとえ自分が正しいと思っていたとしても、誰かに受け入れてもらえない事、嫌われることは悲しいことですから」


シャールの脳裏には、幻滅したかと問うたときのユーラリアの顔が思い浮かんでいた。どこか寂し気で、躊躇いがちなあの表情と声音。それは彼女なりの拒絶されることへの一抹の不安の顕れであるように、シャールには思えた。

シャールの言葉に息を呑み、貼り付いたような微笑みを消したユーラリアの顔に、自分は今とても無礼なことを言っているのではないかと若干の心配があったけれど、もはやここまで流れ出た言葉は止めようがなかった。


「たとえ、覚悟はしていたとしても、転べば痛いし怖いものは怖い――その痛みや恐れを乗り越えて、私たちに自分というものをさらけ出してくれた最高巫司様の誠意。それだけで、誰かに嫌われるのが怖くてたまらない私には尊敬に値するのです」


シャールの言葉に、ユーラリアはくすりと笑った。


「貴女は……私とはずいぶんと違うのですね」


ユーラリアは口元に優雅に手を当てながら、そう言った。彼女の言葉の真意はシャールには分からない。もしかしたら、気分を害してしまったのかもしれない。あるいは、こんな自分を嘲っているのかもしれない。それでもシャールは、ただただ彼女の言葉に思うがままに応える。


「ええ、私は最高巫司様みたいに強くないし、何か崇高な理想があるわけでもない。ただの村娘ですから」


「――でも、それもまた美しい在り方です」


「――エリオスは私のことを気持ち悪い、と言いますけど」


「あら、そこは彼と私の見解の相違ね。美的感覚が違うとお友達にはなりづらいかもしれないわね――私は私の在り方を絶対的に正しいと思っていますけれど、貴女の在り方もまた正しく、そして美しい。私には少し、眩しいくらいに」


ユーラリアはそう言うと、ゆらりと立ち上がりシャールの席へと近づく。そして彼女の手を取り、これまでに見たことのないほどの、少女らしく着飾るもののない野の花のような笑顔を浮かべる。


「貴女を、貴女たちを迎えることができて——本当に良かった」

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