Ep.6-17
「私は貴方の御眼鏡に適った、という理解でよろしいのかしら? エリオス・カルヴェリウス」
「その通りだともお嬢さん——いや、最高巫司サマ」
そこまで言ってエリオスはちらとユーラリアの顔色を窺うような素振りを見せる。そんな彼にユーラリアは微笑む。
「ユーラリアで構いませんよ。今はあくまで私的なお食事会ですから」
ユーラリアが嫣然とそう答えると、エリオスは苦笑を漏らしながら軽く頷き、そして話を続ける。
「君みたいに狂気的なまでに真っ直ぐにスジの通ってる人間は、善悪いずれを標榜するかに関わらず好きだよ。清濁を併せ呑むっていう覚悟がある——だから自分に迷ったりしない」
そう言ってエリオスはちらとシャールとエリシアを見遣る。皮肉のつもりなのだろう。エリシアは苦笑を漏らして肩をすくめる。シャールはといえば、突き刺さる彼の言葉のあまりの鋭さに、視線を逸らさざるを得なかった。
そんな二人を見て、満足げに笑うとエリオスはゆらりと立ち上がる。
「——ふふ、今日は良い時間を過ごせた。一時、形だけとはいえ、仮にもこの私が仕える存在ならば、揺るぎなく誰も彼も巻き込んで己が願いへと突き進む傲慢さと強欲さ、そして悪辣さが必要だからね」
「それは褒めているのかしら? それとも貶している?」
眉根を寄せながらユーラリアは試すような笑みを浮かべる。そんな彼女の問いかけにくすくすと笑いながらエリオスは答える。
「毀誉褒貶は見方によるモノさ。うん、少なくとも私は君を評価しているよユーラリア」
「嬉しいわ、エリオス・カルヴェリウス。私たち、こんな立場じゃなければいい友達になれたんじゃ無いかしら?」
皮肉っぽい笑みを浮かべるユーラリアの言葉にエリオスは思わず吹き出す。そしてゆるゆると首を横に振りながら答える。
「同族嫌悪——結局腹の中を探り合い、いずれ殺し合うんじゃあないかなぁ」
そう言って部屋を出て行こうとするエリオスをユーラリアは目を細めて見送る。
エリオスが部屋を出て行ったのを確認すると、レイチェルは嗜めるようにユーラリアを見遣る。
「——猊下。おしゃべりが過ぎます」
「ふふ、ごめんなさいね。でも、私にあそこまで突っかかってくる人ってあまりいないから、少し楽しくてね」
ユーラリアは笑いながらそう答える。彼女の顔には年相応の悪戯っぽく愛らしい色が浮かんでいる。そんな彼女の表情と言葉に毒気を抜かれたのか、レイチェルは深く溜息を吐いた。
ユーラリアはお説教を諦めたレイチェルから、シャールとリリスへと視線を向ける。
「——彼と話していた言葉には一欠片の嘘もありません。私という人間は、最高巫司という衣を脱ぎ捨てて仕舞えば、ああいう性質なのです」
そう告げる彼女の表情は、笑みを浮かべてはいるけれど、少し真面目でどこか寂しさのようなものを浮かべていた。
「貴女たちは如何なる義務も無いのに、私の求めに応じ、私たちとともに命を賭けて対魔王の最前線に立つべく此処に来て下さいました——そんな貴女たちだから、エリオス・カルヴェリウスも含めて、私は私という人間の本性を教えておきたかった」
そこまで言って言葉を切ると、ユーラリアは深めに息を吐いてから、その顔に浮かべた寂しさの色をいっとう濃くしながら問いかける。
「——幻滅、しました?」
その言葉にシャールとリリスは思わず息を呑んだ。




