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Ep.6-15

「利用……?」


エリオスの言葉に、シャールは眉根を寄せる。彼の言っている事の意味がいまいちシャールには、理解が出来なかった。対して、エリシアとレイチェルは表情を硬くして、エリオスを見つめる。

エリオスは口元に浮かんだ微笑を隠すように唇に手を重ねながら言葉を続ける。


「今回の戦役、最高巫司と統制局長の連名での出兵だけれど、実質的には君の主導だ。特に私という存在を起用したことは独断と言ってもいい。それだけに、この戦役の結果如何では世界的にも組織内に限定したとしても最高巫司と統制局長のパワーバランスは大きく傾く」


自身が集めた聖剣使いたちと彼女自身、そしてエリオスという鬼札――神の敵対者を名乗る魔王との戦役が聖教会側の大勝に終わり凱旋すれば、最高巫司は原初の魔王を倒した英雄エイデスにならぶ「神の権威と世界を守った慧眼なる英雄」としての地位を得ることになる。

そうなれば彼女の言葉はいよいよ神のそれと等しい重みとなり、もはや聖教会の内部では教義聖典官も祭儀神託官の隔てなく誰も逆らえないものとなる。

そうなれば、彼女の望む改革はより一層強力に推し進められるということだ。


「――秀逸なのはこれが神の権威と世界を守るための戦いであること。表立ってそれを宣言してしまえば、統制局長はもはや表立って君に異議を唱えることもできない。私という悪を呼び寄せたことさえも、先の連名勅令の件でもう彼らは反対できない。下手に裏から妨害を行おうにも、露見すれば自分が異端宣告を喰らいかねないから動けない」


エリオスの言葉をユーラリアは静かに聞いていた。その口には愉し気な微笑を浮かべたままで。そんな彼女を見据えながら更にエリオスは続ける。


「教義聖典官たちが、教えの普及と布施の収集のため早々に魔王討伐に乗り出せなかった隙を突いた手腕も見事だったね。おかげで君は統制局長に対して終始優位な立場でこの戦役の準備を進められた。唯一の反撃だった連名勅令の件も、魔王軍の進行という()()で不発に終わった――そこのレイチェル卿とザロアスタ卿は見事に生き残ったからね。いや、本当に見事――見事な策謀ぶりだ。自分自身の欲のためによくぞそれまで人も魔王も神すらも翻弄したものだ」


「貴様――!」


エリオスの抉るような言葉に、がたんと机を鳴らしてレイチェルが立ち上がる。今にも聖剣を抜いて、エリオスに斬りかかるような勢いの彼女の姿にエリオスは肩をすくめて苦笑を漏らす。

そんな二人のやり取りの横で、シャールはちらとエリオスの対面に座して黙するユーラリアの顔を見る。彼女の顔はエリオスの侮辱とも挑戦とも判ぜぬ言葉を受けてなお、薄ら笑いを浮かべていた。

そんな彼女の表情は、神殿にいた彼女の荘厳さゆえの峻厳たる恐ろしさとは違う、そこの知れない得体の分からない恐ろしさを帯びていた。

エリオスの宥めるふりをして煽るような言葉に怒りを煮えたぎらせるレイチェル。そんな二人をよそに手元の黄金のゴブレットを傾けて、中に満ちた果汁を口に含み、飲み下す。それからユーラリアは薄ら笑いを浮かべたままに口を開く。


「ねえ、エリオス・カルヴェリウス? たとえば貴方が言った通りだったとして――それが何だというのでしょう?」

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