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Ep.6-12

老人——聖教会統制局長たるその男は、表面上はあくまで柔和な笑みを浮かべたまま、軽く頭を下げてから玉座に座する最高巫司を見上げる。


「突然の来訪、失礼しました猊下。しかし私としても、これから世界の命運を左右する方々の顔を拝みたいのですよ」


「客分とは明日午前の軍議にて統制局長殿にも引き合わせるとお伝えしていたと思いますが?」


「ははは。老い先短い老人ですからねぇ。気になりだすとほんの数時間ですら待てなくなってくるのですよ。ご寛恕を——さて」


そこまで言うと統制局長はその場でマントを翻しながら、広間に跪くシャールとリリス、そして腕を組みながら立っているエリオスに視線を向ける。


「ふむ。君たちが此度の戦いにおける客分——その力を世界のために振るってくれる勇士か。まずは協力を感謝する。私はこのアヴェスト聖教会にて現在統制局長を務めているジャン・コーション・ド・ルーアンという者だ」


そう言うとルーアン局長はじろりと眼下に跪く者たちを見遣る。そんな彼の視線に、厭なものを感じてシャールは頭を下げる風を装って彼と目を合わせることから逃れる。


「勇者エリシア・パーゼウスと同じくシャール・ホーソーン、そして魔術師リリス・アルカディス。ふむ、書面で名前は見ていたが君たちのようなうら若き乙女だったとはね——いや、驚いたよ」


そう言いながらルーアン局長はくつくつと笑う。表情は柔和なのに、どこかその瞳には見下すような光を帯びている気がした。事前にあまり良い情報を聞いていなかったからだろうか。

いや、多分違う。彼はシャールたちの名前を呼んだけれど、ユーラリアが一人一人の顔を見ながら呼んだのとは違って彼は誰がシャールで、リリスで、エリシアなのかを把握していない。顔すら上から眺めるだけで見ようとしていないし、識別しようともしていないのだ。

そんな彼は、続けてシャールたちの背後で腕を組んでいる少年に目を向ける。


「そして君がエリオス・カルヴェリウス。その力量は異端訴追騎士団長ザロアスタより聞き及んでいるよ。そしてその所業についてもね。我々としては、君のような者の力を借りねばならないのは甚だ不本意だが——」


「統制局長殿……! 客人に対して非礼ですよ」


ルーアン局長の言葉をユーラリアが少し慌てたように嗜める。そんな彼女と同じようにシャールやレイチェルたちも、思わず身構える。

喧嘩腰の言葉に、エリオスがどんな反応を示すか分からない——場合によっては、権能で統制局長の首を刎ねにかかるかもしれない。そんな恐れを皆が共有していた。しかし——


「ふふ。不本意ならば、あくまで私のことは単なる力、武器として考えればいい。お互いに利用し合う関係の方が気兼ねが無いからね」


エリオスは穏やかな声でそう言って嫣然とした笑みを浮かべる。その言葉からは怒りの色も、不機嫌さも感じられなかった。そんな彼の言葉に、シャールをはじめとするエリオスの凶悪性を目の当たりにした者たちも、ユーラリアや騎士たちのような伝聞でそれを知っていた者たちも唖然とした表情を浮かべる。

ルーアン局長はエリオスの言葉に満足げに頷くと、最高巫司の方を振り返る。


「——それでは猊下。お話中のところ邪魔をして申し訳ございませんでした。私はこれで」


そう言ってにんまりとした厭な笑みを浮かべながら、ルーアン局長は踵を返して広間から出て行った。

呆気に取られた彼らの視線を一身に受けながら、エリオスはすこし不思議そうな顔をして、微笑む。


「さて、最高巫司。晩餐会の話だったかな?」

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