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Ep.6-7

馬車から降りるとエリオスは悠々と聖教会の神殿へと続く道を歩いて行く。聖職者や学者、聖騎士たちが行き交う街並みの中にあっては異質な服装の彼は、一歩進むごとに、周囲の人間の目を引いて行く。それでもエリオスは自分が視線を集めていることなど気にも留めないで歩き続ける。

シャールはもつれそうな足でその後を必死で追いかける。そんな彼女もまた、異質な見た目から周囲の目を引いてしまっていた。自分に視線が突き刺さっていることを感じるたびに、シャールは自分が今場違いなところにいるという事実を突きつけられているようで、全身が熱く恥ずかしくなってしまうが、エリオスの後を全力で追いかけることで、何とかそんな現実から目を逸らしていた。

そんな人々の視線が容赦なく注がれる大通りを抜けると、神殿の前に出た。


「――わぁ」


シャールは神殿を見上げて思わず立ち止まり、声を漏らす。

小高い丘の上にある神殿、そこへ向かう白亜の大階段の両脇には、その頂に火が灯されたエンタシスの石柱が並んでいる。内部には水路でも走っているのだろうか、神殿から小さな滝が幾筋もカーテンのように広がり流れ落ちている。ぱちぱちと燃える炎の音と流れる水の音の重なり合いが、神聖な空気に拍車をかけている。

神殿は遠目に見ても豪奢な建物であったが、近くで見ると細部の装飾の精緻さや歴史的経過まで感じられて、より一層その存在が重々しく感じられる。


「――呆けてないで行くよ。シャール」


エリオスは呆れたような表情を浮かべながらシャールを一瞥してから、神殿に向けて一歩踏み出そうとする。しかし、そんな彼の前に二本の槍が交差して道をふさぐ。槍で道をふさいだのは白い鎧に身を包んだ騎士。


「神殿には許可のない者は入れない」


「――聖騎士、いやその中でも最高巫司直属の神殿騎士か」


低い声で侵入を拒絶する騎士にエリオスは、顎をさすりながら鼻を鳴らす。道をふさいだ二人の神殿騎士は、エリオスとシャールを怪訝そうな表情でまじまじと見つめている。


「許可、ねえ……いったい誰の許可を貰えばいいのか分からないけれど。ふむ――」


不味いかもしれない――シャールは全身をびくんと震わせた。

シャールはエリオスをちらと見ながら、腰に佩びた聖剣に手を伸ばす。彼ならば、もしかしたら気まぐれにこの騎士たちを殺したり戦闘不能にして先に進もうとするかもしれない。もしもの時には聖剣を使ってでも彼を止めなくては――そんなシャールの懸念とは裏腹に、エリオスはくつくつと喉の奥で笑いながら、嫣然とした表情で騎士たちを見つめる。


「そうだな……私の名はエリオス・カルヴェリウスという。これで通してもらえるかな?」


そんな彼の言葉に、神殿騎士たちの表情が凍り付く。どうやら彼らにも、エリオスの存在とその悪行、そしてこの場に彼がいる意味は伝えられているようだった。

それでも、騎士は未だに疑い深そうな目でエリオスとシャールを見つめている。


「いまやエリオス・カルヴェリウスという名は知る者の多い名だ。騙りでないことを証明できるか?」


「私が此処でわざわざそう名乗ったことが何よりの証明じゃないかな?」


エリオスがそう悪戯っぽい笑みを浮かべながら答えると、騎士は眉をぴくりと動かしてから小さくため息を吐いてから、相棒に目で合図しながら槍の封鎖を解いた。


「然り――よろしい。どうぞ、お通り下さい。我らが神殿騎士団長ならびに偉大なる最高巫司猊下がお待ちです」


「御苦労、では失礼するよ」


そう言ってエリオスは二人の横を通り抜けて神殿への階段を上がっていく。シャールはそんな彼においていかれないようにとその背中を追いかけた。

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