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Ep.6-6

それからの流れは早かった。

準備を整えたエリオスがアリアのために防御魔術の結界を張ったのを見届けると、四人は馬車に乗り込みアリアに見送られながら屋敷を後にした。

レイチェルが連れてきた馬車は、外観からすれば装飾もほとんどなくて質素であったが、中には行ってみれば座席部分はふかふかとした柔らかなソファになっていて、空間も多少魔力で拡張されているのか足を伸ばせるほどの広さだった。

「魔王との戦いにおける大事な戦力を神殿までの馬車で疲弊させたのでは聖教国の権威に関わる」とはレイチェルの言であり、事実旅路は身体的には快適だった。

しかし、精神的にどうかと言われれば馬のひづめの音が重なるにつれて近づいてくる暗黒大陸での戦いへの緊張感が積み重なっていった。幸い、レイチェルからの言葉のおかげで焦燥感や恐怖、強迫観念じみた心を削るようなモノはだいぶ和らいでいたけれど、それでもやはり全身が常に強張っていた。

精神的に落ち着かなかったのはレイチェルも同じだったようで、同じ馬車の中にいながら常にエリオスの一挙手一投足に目を配っていた。万が一、彼が何かしでかそうとしたら、取り返しのつかないことになる前に――ということなのだろう。

結局、旅路を優雅に過ごせていたのはレイチェルの視線を気に留めることもなく、窓の外の景色を楽しんでいたエリオスと、持ち込んだ茶菓子を頬張っていたエリシアだけだった。



§   §   §



「——シャール、シャール? 起きたまえよシャール」


靄の向こうから響いてくるような声で、シャールは意識を覚醒させる。貼りつきそうな瞼をうっすらと開けると、辺りは薄暗い赤い光に包まれていた。


「……あ……れ? わた、し……寝てた……?」


「やっと起きたかい。全く、お子様は手がかかっていけないね」


呆れたようなため息を漏らしながら、鋭利な皮肉を投げつけるエリオスに、シャールはわずかに表情を顰める。どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。緊張感による精神的な疲れと、馬車の快適さによる肉体的な睡眠欲求が合わさった結果だろうか。

シャールは手櫛で髪を整えながら、馬車の中を見渡す。エリシアとレイチェルの姿が見えない。


「あの二人は……?」


「先に出て行ったよ。最高巫司に報告に行くって言ってね。それで私は君のお守りを任せられたってワケ」


「そう……え? 最高巫司様に……って?」


エリオスの言葉にシャールは混乱する。そんな彼女を呆れたように見下ろしながら、エリオスは窓の外を指さす。

夕焼けの赤い光の中、エリオスの指の先にあったのは小高い丘の上に造られた静謐な空気に包まれた巨大な白亜の神殿。そしてその周囲にはこちらも白を基調とした建物たちが並び街を形成している。

繁栄具合はかつてのレブランクの首都マルボルジェに勝るとも劣らないが、その雰囲気は大分違う。

周囲を行き交う人たちは僧衣や聖騎士の鎧に身を包んだものばかり。


「ここ……は……」


唖然として口を開けるシャールに、エリオスはいたずらっぽい笑みを浮かべながら答える。


「そ。もうここは目的地——今や大陸最大の国家アヴェスト聖教国の首都ウィスプラティアだ。さあ、目が覚めたのなら急ごうじゃあないか。この世界で一番権威ある神の代理人サマがお待ちだよ」

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